カフェの目の前にある小さな交差点。目の前を車が去っていく。信号が変わるまでの間に呼吸を整える。スマホの画面に表示された時刻は、待ち合わせの六分前だった。
扉が開くと同時に、スイーツに使われているバターの芳醇な香りが鼻に抜ける。俺に気付いたのか手を挙げた凉樹。笑みを浮かべた。
「いや、何で笑ってんだよ」
「変わらないなって思ってさ」
「グループ抜けたからって唐突に変わらないよ」
「まぁそうだよな」
注文を取りに来た店員が、「ご注文はお決まりですか?」と言うので、「いつもので」と凉樹が答えると、にこやかな表情を浮かべて「かしこまりました」と二人の元を去る。
「話って何?」
俺は顔を近づけた。彼の瞬きが多くなる。
「聞いて驚くなよ」
「何々?」
「俺、十月から始まる新しいバラエティ番組のレギュラーに選ばれた」
「おぉー・・・、って、え! まじか!」
女性客で賑わいをみせるカフェにいるのに、その場に似つかない声のトーンで言ってしまった。周りからの視線が突き刺さる。
「声大きいってば」
「ごめんごめん。だって驚いたんだもん。仕方ないだろ?」
「だよな。俺もまさっきぃから電話で聞いたんだけどさ、家で一人喜んだよ」
たぶん凉樹は茶色のソファの上で喜んだのだろう。そんな彼のことが愛おしい。
「喜んでる凉樹の姿が簡単に想像できる」
「うそ」
「ホント。そもそも俺ら何年も一緒に過ごしてきたんだから、それぐらい分かるって」
「あぁまぁそうか。俺ら付き合い長いもんな」
「そうだよ。これからも俺は凉樹と付き合いたいけどな」
「俺も。俺、咲佑がいないと駄目みたいだからさ」
そう言われた瞬間、胸は激しめな音を立てた。もしかしたら聞かれたんじゃないかと思うぐらいだった。平然を装いたい。その思いで俺は口を開く。
「とにかく、レギュラー決定おめでとう」
違う。そうじゃない。おめでとうは合ってるけど、伝えるタイミングは今じゃない。本当は告白めいたことを言いたかったのに。それが言葉として出てこなかった。
「おう」
目の前に座る凉樹は、頷くような瞬きをしたあと、ふふっと可愛く微笑んだ。彼のせいで、平然を保てなくなってきている。俺は、凉樹に操られているのかもしれない。だったら俺は凉樹の操り人形になって、一生操られ続けたい。このほうが俺にとったらいい未来なのかもしれない。
扉が開くと同時に、スイーツに使われているバターの芳醇な香りが鼻に抜ける。俺に気付いたのか手を挙げた凉樹。笑みを浮かべた。
「いや、何で笑ってんだよ」
「変わらないなって思ってさ」
「グループ抜けたからって唐突に変わらないよ」
「まぁそうだよな」
注文を取りに来た店員が、「ご注文はお決まりですか?」と言うので、「いつもので」と凉樹が答えると、にこやかな表情を浮かべて「かしこまりました」と二人の元を去る。
「話って何?」
俺は顔を近づけた。彼の瞬きが多くなる。
「聞いて驚くなよ」
「何々?」
「俺、十月から始まる新しいバラエティ番組のレギュラーに選ばれた」
「おぉー・・・、って、え! まじか!」
女性客で賑わいをみせるカフェにいるのに、その場に似つかない声のトーンで言ってしまった。周りからの視線が突き刺さる。
「声大きいってば」
「ごめんごめん。だって驚いたんだもん。仕方ないだろ?」
「だよな。俺もまさっきぃから電話で聞いたんだけどさ、家で一人喜んだよ」
たぶん凉樹は茶色のソファの上で喜んだのだろう。そんな彼のことが愛おしい。
「喜んでる凉樹の姿が簡単に想像できる」
「うそ」
「ホント。そもそも俺ら何年も一緒に過ごしてきたんだから、それぐらい分かるって」
「あぁまぁそうか。俺ら付き合い長いもんな」
「そうだよ。これからも俺は凉樹と付き合いたいけどな」
「俺も。俺、咲佑がいないと駄目みたいだからさ」
そう言われた瞬間、胸は激しめな音を立てた。もしかしたら聞かれたんじゃないかと思うぐらいだった。平然を装いたい。その思いで俺は口を開く。
「とにかく、レギュラー決定おめでとう」
違う。そうじゃない。おめでとうは合ってるけど、伝えるタイミングは今じゃない。本当は告白めいたことを言いたかったのに。それが言葉として出てこなかった。
「おう」
目の前に座る凉樹は、頷くような瞬きをしたあと、ふふっと可愛く微笑んだ。彼のせいで、平然を保てなくなってきている。俺は、凉樹に操られているのかもしれない。だったら俺は凉樹の操り人形になって、一生操られ続けたい。このほうが俺にとったらいい未来なのかもしれない。