騒然としている空間でどよめく観衆たちは、近づいてくるサイレンの音によって掻き消されていく。男たちの低くも響く声がすぐ近くで聞こえる。ただ、何を言っているのか全く分からない。日本語というよりは知らない言語にしか聞こえない。そんな言語を浴びながら動かない身体を誰かの手によって押さえつけられ、何か板みたいなやつに乗せられた。この刹那、気付いた。俺は救急車に乗せられているのだと。

「あぁ、俺は助けられてるんだ」

バタンという音とともにシャットアウトされた観衆たちの声。すぐそばで彼の吐息が聞こえ、耳に微かに届く。

「凉樹、助けに来てくれてありがとう。俺は死なずに済みそうだよ」

 俺は長い幻夢を見た。とあるマンションの一室。そこで凉樹と俺は夫婦のような暮らしをしていた。互いに芸能界の仕事をしていて、凉樹はNATUralezaとしても活動していた。暮らし始めて三年後、二人の間には娘の果歩《かほ》が生まれ、仕事第一だったのを子育て第一に変えて、家族三人の時間を楽しむというものだった。

ここまでハッキリと光景や内容、交わした言葉を憶えている夢を見たのは久しぶりのことだった。これは、俺の将来をお告げしてくれたのかもしれない。幻夢と言うよりも、霊夢なのかもしれない。だとすれば、死んだら駄目だ…。米村咲佑として生きなきゃな。