村瀬が凉樹に、咲佑が任意同行に応じたことを伝えた。そして、容疑が固まり次第逮捕されることも。凉樹はその場でしゃがみ込んだ。全身の筋力がすべて脆くなったみたいだった。村瀬はその様子を、唯々棒立ちで見ていた。手を差し伸べたり、立ち上がるように強要したりもしなかった。
村瀬を含め警察関係者らが俺の家から出て行ったのは、二十時半を過ぎた頃だった。テレビをつけ、冷めたカレイの煮つけを電子レンジで温めて、遅めの夕飯を食べる。時間が経ったからか、味は十分に染みていた。
テレビからは、芸人たちのガヤが聞こえてくる。咲佑のことを「あんな同性愛者」と言った芸人が、平然とした様子で映っていた。顔を見るのも厭わしくなって、そのままテレビを消す。今頃咲佑は何を訊かれているんだろう・・・。ラックにはコーヒーカップが寄り添うように置かれたままだった。
凉樹のもとにかかってきた一本の電話。相手は三十分前に帰っていった村瀬だった。そこで聞かされた強盗事件に関する一連のことに、凉樹は相づちすら打てなくなっていた。
狂い始めた歯車は復することなく、九月六日、咲佑は逮捕された。昏睡強盗という罪名だった。
*
咲佑に懲役六年が言い渡され、事件は幕を閉じた。
仕事もプライベートもひと段落したところで俺は警察署へ呼び出され、そこで説明を受けた。
「被疑者が強盗した理由は『自分が凉樹のことを独り占めしたかった』というものだ。それ以外にも、『睡眠薬を飲ませてまで強盗するつもりはなかったが、凉樹の家に来た途端に女の匂いを感じ、そのことが引き金となって事件を起こした』とも語っている。つまりは被害者の家にある、女からの貰い物を被疑者が盗ることで、被害者とその女を喧嘩させて引き離させ、ゆくゆくは二人で幸せになろうとしていた。そういうことらしい」
俺は何も言えなかった。咲佑の行き過ぎた愛情が、事件という形になって、そして逮捕されて幕が下りるという結末を迎えたことに対し、少なからず責任を感じたから。
でも、そのことを誰かに相談することもないし、咲佑がいる刑務所へ出向くつもりもない。だから俺は彼のことを忘れることにした。それが、彼にできる唯一の罪滅ぼしになるだろうから。
今までありがとう。これからは互いに一人で生きて行こうな。
村瀬を含め警察関係者らが俺の家から出て行ったのは、二十時半を過ぎた頃だった。テレビをつけ、冷めたカレイの煮つけを電子レンジで温めて、遅めの夕飯を食べる。時間が経ったからか、味は十分に染みていた。
テレビからは、芸人たちのガヤが聞こえてくる。咲佑のことを「あんな同性愛者」と言った芸人が、平然とした様子で映っていた。顔を見るのも厭わしくなって、そのままテレビを消す。今頃咲佑は何を訊かれているんだろう・・・。ラックにはコーヒーカップが寄り添うように置かれたままだった。
凉樹のもとにかかってきた一本の電話。相手は三十分前に帰っていった村瀬だった。そこで聞かされた強盗事件に関する一連のことに、凉樹は相づちすら打てなくなっていた。
狂い始めた歯車は復することなく、九月六日、咲佑は逮捕された。昏睡強盗という罪名だった。
*
咲佑に懲役六年が言い渡され、事件は幕を閉じた。
仕事もプライベートもひと段落したところで俺は警察署へ呼び出され、そこで説明を受けた。
「被疑者が強盗した理由は『自分が凉樹のことを独り占めしたかった』というものだ。それ以外にも、『睡眠薬を飲ませてまで強盗するつもりはなかったが、凉樹の家に来た途端に女の匂いを感じ、そのことが引き金となって事件を起こした』とも語っている。つまりは被害者の家にある、女からの貰い物を被疑者が盗ることで、被害者とその女を喧嘩させて引き離させ、ゆくゆくは二人で幸せになろうとしていた。そういうことらしい」
俺は何も言えなかった。咲佑の行き過ぎた愛情が、事件という形になって、そして逮捕されて幕が下りるという結末を迎えたことに対し、少なからず責任を感じたから。
でも、そのことを誰かに相談することもないし、咲佑がいる刑務所へ出向くつもりもない。だから俺は彼のことを忘れることにした。それが、彼にできる唯一の罪滅ぼしになるだろうから。
今までありがとう。これからは互いに一人で生きて行こうな。