奏さんから告白され、それを受理してから二週間。秋が間近に迫ってきているのに、まだまだ熱帯夜が続いていた。咲佑と奏さん、二人と付き合っていることを未だ誰にも伝えられていない凉樹。あと二日で九月を迎えるが、その前に伝えておきたいという気持ちはあった。しかし、伝えようとするも怖気づいてしまい、中々口にすることができない。いい加減自分にケジメをつけなければ。その思いで凉樹はある行動に出る。
収録終わり、タクシーに乗り込んだ俺は咲佑にメッセージを送信した。「会って伝えたいことがある」と。その返事はすぐに届いた。俺は送られてきたメッセージを見て、正直驚いた。まさか咲佑も伝えたいことがある、なんて言ってくるとは思っていなかったから。なんて返事をしようか迷っているとき、タクシーが自宅に到着した。金銭を払い、荷物を持ってタクシーを降りる。そのタイミングで、レジ袋を提げた桃凛と出くわし、ある話題を境に話に花が咲いてしまった。
咲佑の返事に連絡していないことに気付いたのは、三日後だった。慌てて待ち合わせの日付と時間、待ち合わせ場所を送り、そして連絡が遅くなったことを詫びた。そして咲佑とお揃いで購入した敬語スタンプを送った。すると、咲佑からも同じスタンプでの返信があった。基本、仕事のやり取りも、プライベートのやり取りも、こまめにチェックし、すぐに返信するようにしているが、今回はつい抜けてしまっていた。恐らく咲佑には心配をかけてしまっただろう。次からは気を付けなければ。
九月六日。オフ三連続の中日だった。カーテンの隙間から差し込む日差しで目覚め、スマホを手に寝室を出る。寝ぼけ眼のままリビングにある小さなテレビの電源を入れると、三十歳ぐらいの女性が全国の天気予報を伝えていた。その数十秒後、地元の天気予報に切り替わる。今日一日は曇りで雨は降らないだろうと言っていた。
ベランダからは生暖かい風が吹いてくる。雲行きも段々と怪しさを増す。天気が不安になりつつ、クローゼットの中で窮屈そうにしている服を選んで身に纏い、財布とスマホ、交通系ICカードを手に家を出た。
余裕をもって家を出て正解だった、のかもしれない。もうすぐ降りる駅につく、そんなタイミングで振り出した雨。雲に覆われつつもまだ空は明るかった。
雨は駅を降りても降り続け、次第に振って来る雨粒が大きくなっている。雨に打たれても、目的地であるイタリアンレストランに向けて走り続けた。着ている服が水を吸って重たくなっていくのを感じたのは初めてだった。
角を曲がった先で、見覚えのある人の姿があった。店先のメニューを見ているようにも、雨宿りしているようにも見えないその人に、俺は声を掛けた。
「よっ、咲佑」
俺は雨粒が付着したサングラスを外す。全身ずぶ濡れになった咲佑の姿が瞳に飛び込んできた。
「え、咲佑も濡れてんの?」
「凉樹もかよ」
「悪いかよ」
「いや悪くはないけど、傘持ってないのかよ」
「今日は丸一日オフだったからさ、家から直で来たんだけど、雨降るなんて思ってなくてさ」
「それ俺もだよ。まさかここまで本降りの雨に打たれるとはな」
「あぁ。俺らやっぱり似たもの同士だな」
「だな。で、どうする? こんな格好じゃこの店・・・」
咲佑には伝えていなかった。この目の前に建つ店がどういう所なのかを。
「大丈夫。ここ俺の兄貴がやってる店だから」
「え、凉樹のお兄さんが?」
「そう。店の裏に兄貴ん家もあるし、事情話せば入れてくれると思うから」
「お兄さんって結婚してるんじゃ」
「したよ。一昨年に」
「流石に迷惑じゃ―」
「こんなところ居るほうが迷惑だろ? それにここ突っ立ってるだけじゃ濡れ続けるだけだから、行くぞ」
収録終わり、タクシーに乗り込んだ俺は咲佑にメッセージを送信した。「会って伝えたいことがある」と。その返事はすぐに届いた。俺は送られてきたメッセージを見て、正直驚いた。まさか咲佑も伝えたいことがある、なんて言ってくるとは思っていなかったから。なんて返事をしようか迷っているとき、タクシーが自宅に到着した。金銭を払い、荷物を持ってタクシーを降りる。そのタイミングで、レジ袋を提げた桃凛と出くわし、ある話題を境に話に花が咲いてしまった。
咲佑の返事に連絡していないことに気付いたのは、三日後だった。慌てて待ち合わせの日付と時間、待ち合わせ場所を送り、そして連絡が遅くなったことを詫びた。そして咲佑とお揃いで購入した敬語スタンプを送った。すると、咲佑からも同じスタンプでの返信があった。基本、仕事のやり取りも、プライベートのやり取りも、こまめにチェックし、すぐに返信するようにしているが、今回はつい抜けてしまっていた。恐らく咲佑には心配をかけてしまっただろう。次からは気を付けなければ。
九月六日。オフ三連続の中日だった。カーテンの隙間から差し込む日差しで目覚め、スマホを手に寝室を出る。寝ぼけ眼のままリビングにある小さなテレビの電源を入れると、三十歳ぐらいの女性が全国の天気予報を伝えていた。その数十秒後、地元の天気予報に切り替わる。今日一日は曇りで雨は降らないだろうと言っていた。
ベランダからは生暖かい風が吹いてくる。雲行きも段々と怪しさを増す。天気が不安になりつつ、クローゼットの中で窮屈そうにしている服を選んで身に纏い、財布とスマホ、交通系ICカードを手に家を出た。
余裕をもって家を出て正解だった、のかもしれない。もうすぐ降りる駅につく、そんなタイミングで振り出した雨。雲に覆われつつもまだ空は明るかった。
雨は駅を降りても降り続け、次第に振って来る雨粒が大きくなっている。雨に打たれても、目的地であるイタリアンレストランに向けて走り続けた。着ている服が水を吸って重たくなっていくのを感じたのは初めてだった。
角を曲がった先で、見覚えのある人の姿があった。店先のメニューを見ているようにも、雨宿りしているようにも見えないその人に、俺は声を掛けた。
「よっ、咲佑」
俺は雨粒が付着したサングラスを外す。全身ずぶ濡れになった咲佑の姿が瞳に飛び込んできた。
「え、咲佑も濡れてんの?」
「凉樹もかよ」
「悪いかよ」
「いや悪くはないけど、傘持ってないのかよ」
「今日は丸一日オフだったからさ、家から直で来たんだけど、雨降るなんて思ってなくてさ」
「それ俺もだよ。まさかここまで本降りの雨に打たれるとはな」
「あぁ。俺らやっぱり似たもの同士だな」
「だな。で、どうする? こんな格好じゃこの店・・・」
咲佑には伝えていなかった。この目の前に建つ店がどういう所なのかを。
「大丈夫。ここ俺の兄貴がやってる店だから」
「え、凉樹のお兄さんが?」
「そう。店の裏に兄貴ん家もあるし、事情話せば入れてくれると思うから」
「お兄さんって結婚してるんじゃ」
「したよ。一昨年に」
「流石に迷惑じゃ―」
「こんなところ居るほうが迷惑だろ? それにここ突っ立ってるだけじゃ濡れ続けるだけだから、行くぞ」