七月三日。朝八時半にCMの撮影現場にやってきた四人は緊張と期待を抱いた面持ちでいた。個人ではCMのキャラクターに就任したこともあったが、グループ全員でというのは初めてのことだった。

 なぜ四人になった途端にそのような話が舞い込んできたのかは分からない。でも、もし咲佑が抜けたことが理由の一つにあるのなら断るべきだったのかもしれないと、凉樹は撮影道具に目を向けながら一人考える。それは、咲佑は五人全員でCMに出演することを夢見ていたから。このことを知ったら咲佑はどう思うのだろう。でも、四人で出演することを喜んでくれないとは思えなかった。咲佑のことだから、きっとポジティブな言葉をかけてくれるだろう。だから断らない。撮影したものが咲佑に届けば、それでいいのだから。

「それでは撮影を始めます」

 四人は監督からの指示を受けてから撮影に臨んだ。休憩中には監督から凉樹に対して急なアドリブが要請されたが、凉樹はバラエティに出演して培ってきたお笑い力を存分に発揮し、対応。カットの声がかかると現場は笑いに包まれ、凉樹自身も手応えを感じていた。グループでのCM撮影は初めてだったのにも拘わらず、誰もミステイクすることなく、当初の予定時間よりも三十分も巻いて終わっていった。

「撮影は以上になります! お疲れ様でした!」

俺らはスタッフから受け取った小さな花束を抱え、いつものようにスタッフ一人一人に声をかけて楽屋へ戻る。

「終わったな」
「凉樹くん、アドリブ対応流石っすね」
「そんなことないよ。でもやっぱり夏生は演技が上手いな。近くで見てて感心した」
「そう言われると恥ずかしいです。ただ何回もやってると、桃凛みたいな初々しさは出せませんよ」
「えっ、僕そんなに初々しかったですかぁ?」
「うん。で、桃凛は撮影楽しめた?」
「はい! 常連の三人みたいには上手くできませんでしたけどねぇ」
「そんなことないよ。桃凛もよくやったと思う」
「ありがとうございますぅ」

 何気ない会話を交わしていると、正木がドアを開けるなり、「ふざけんなっ!」と、誰かに対して怒りを爆発させた。久しぶりに見る正木の一面に、明らかに引き気味の桃凛。夏生が「まさっきぃ・・・?」と疑問形で言うも、聞こえてないのか無視をしたのか分からないが、「何なんだよっ」と自分の拳を太腿にぶつける。

「まさっきぃ、もしかして俺が撮影で何かやらかした?」

正木の言動を訝って聞き質す。しかし正木は渋る。「いや、違う」
「じゃあもしかして、撮影で何か問題が・・・」

そう朱鳥が心配して聞いたことに対し、正木は怒り口調で答える。「撮影の問題じゃない」
「撮影じゃないって・・・、じゃあ何の」
「まさっきぃ、何かあったの?」

夏生と桃凛の発言に顔を(しか)めた正木。俺の背中を一筋の冷や汗が伝う。

「咲佑が、失踪した」