「じゃあ最後に、凉樹」

「・・・おう」

「凉樹とはグループ結成前から知り合って、どんなときも一番に俺のことを気にかけてくれたよな。自分が辛いときだってあったはずなのに」

「いやぁ、まぁそれは・・・さ、俺にとって咲佑が大事な存在だから。だから放っておけなくなるって言うかさ」

「ありがとな。その気持ちが俺にとったら嬉しい」

「照れるなよ。こっちまで恥ずかしくなるだろ」

「今日ぐらい良いだろ」

「だな」

「今日まで色んな相談をしてきたけど、一番憶えてるのは、自分の魅力が分からないって相談したとき、親身になって話を聞いてくれたことあっただろ? 俺はあの瞬間に一皮剥けた気がするんだ。それに、相談の最後に『泣きたくなったら泣いていいんだよ』って言ってくれてさ」

「懐かしいな。っていうか当時まだ中学生とかだったのにな。ほんとあっという間だったな」

「うん。でもあのとき凉樹に相談してなかったら、きっと俺はこの場に居られなかったと思う。だから、本当に感謝してる」

「おう」

「それに、凉樹がリーダーじゃなかったら、俺はとっくにNATUralezaを辞めてたかもしれない。実際、俺は何度もNATUralezaを辞めようと思って生きてきた。ただ、辞めたいって言うたびに、凉樹が一番に引き留めてくれた。だから、正直今回も引き留められると思ってた。まぁ、引き留められても俺はもう腹くくってたけどな。でも最終的には俺の背中を押してくれた。今まで何度も引き留めてくれてありがとう。だけど、結局俺はこの道を選んだ。最後まで自分勝手な奴でごめん。本当にごめん」

 咲佑の目頭は熱くなり、やがて潤み始める。瞬きをすれば零れそうなぐらいに溢れてきそうな涙。それを見た凉樹は、咲佑に満面の、優しさに溢れた笑みを向ける。

「咲佑、もう俺に謝る必要はない。最後ぐらい笑顔でいよう。俺は咲佑が泣く姿をもう見たくないんだからよ」

「・・・そうだな。うん、もう泣かない」

 涙のせいで視界が滲んでいく。零れる前に服で拭う。クリアになった視界の先には、咲佑よりも大量の涙を浮かべる凉樹の姿があった。

「咲佑、今日までありがとう。五年間NATUralezaとして共に切磋琢磨しながら活動できて嬉しかった。デビュー当時はずっと五人で活動できるものだと思ってたし、グループの形が崩れるなんて絶対に嫌だと思ってた。だから俺は咲佑が脱退したいっていう話をするたびに、自分の考えだけで引き留めてた。俺こそ気随な奴だった。ごめんな」

「ううん」

「でもさ、今となっては咲佑の背中を押すことしかできないって考えるようになった。なんか不思議だよ」

「それだけ互いに大人になったってことだよ」

「そっか。だな」

「なんか俺、当時は引き留めてくれるのが苦しいって感じてたけど、今、凉樹の引き留めてくれてた理由を聞いて心嬉しいよ」

凉樹は照れながら「おう」と優しく頷いた。

「咲佑。明日からNATUralezaのメンバーじゃなくなるけど、これからも友達の関係でいることに変わりはない。だから、これからは咲佑の優しさで俺の、NATUraleza四人の心を照らしてくれ」

「もちろんだよ。俺は明日からファンとして生きていくよ」

「今日までありがとな、咲佑」

「こちらこそ」

 咲佑はあの言葉を伝えるために、乱れた呼吸を整える。

「石井凉樹。出逢えて本当によかった。今日までありがとう。大好きだぞ」

「おう。俺も、咲佑のこと大好きだ!」

 貸し切り同然の店内に響き渡るような大声で叫んだ凉樹。このとき、メンバーは仲間として好きだと言ったのだろうと思っていた。が、実際には、凉樹は別の意味も込めて叫んでいた。咲佑含めた四人がその意味を知るのはまだ先のこと。

「凉樹、朱鳥、夏生、桃凛。約五年間、NATUralezaとして一緒に活動できて、充実したグループ生活を送ることができて、俺は本当に感無量だよ。明日からはメンバーじゃなくなるけど、前にも話したように同じ会社に残ってソロ活動させてもらうから。だから改めて、これからもよろしくお願いします」

 五人は熱く抱擁を交わし、互いの健闘を祈り合う。咲佑の心は清閑そのものだった。なみだの決戦日。それは、脱退した咲佑だけの物語じゃない。NATUraleza五人が歩んできた歴史の一ページに刻まれる、貴重な物語だった。