五月三十一日。NATUraleza五人で過ごす最後のとき。夏生まれが集まっただけあって、お昼には七月中旬並みの気温を突破した。そんな暑さの中、五人は最後のステージに立つ準備を進めていた。ファンに向けて開催される今日のイベントは、デビューしてすぐに立った小さなステージで行われる。イベントは同時に動画サイトで配信されるようになっていて、その分多くのスタッフたちが出入りする。
二十歳越えの男たちには少し小さい楽屋。五人は身を寄せ合い、十八時からのイベントに向けて準備を着々と進める。そのころ、ちょうどキッチン側からは美味しそうな匂いがしてきていた。時計を見ると、十二時を過ぎたばかりだった。
イベント前の食事は五人揃って食べることが、デビュー当時から暗黙のルールみたいなものになっていた。誰かが強制したものでなく、たまたま食事の時間が同じだったために、自然とできた流れだった。その代わり、ご飯を食べる前と食べた後は相手の邪魔もせず、黙々と自分たちのルーティンをして過ごす。これがお決まりになっている。今さら変えることはできない。
「そろそろご飯食べるか」
凉樹が触っていたスマホを机に伏せる形で置き、ケータリングがある方向を指差す。朱鳥たちは返事をして、料理が並ぶスペースへ歩いて向かう。それぞれが好きな料理を皿に盛りつけ、テーブルに並べ、顔を見合わせながら食べる。
朱鳥や桃凛はおにぎりやサラダなど、自分の好物をどんどんと口に運んでいく。しかし夏生の手は止まったままで、うどんの麺が太っているような気がした。そのことに気付いた凉樹が納豆をかき混ぜながら聞く。
「夏生、うどん食べないのか?」
「いえ、食べますよ」
「食べないと伸びるんじゃないのか?」
「そうですね…」
「どうした? 元気ないな」
「元気ですよ。でも、楽屋で五人揃って食べるご飯も今日が最後なんだって思うと、なんか食べる気が失せちゃって」
「そうか」
凉樹は納豆の入ったパックをテーブルの上に置き、夏生の背中に手をやる。二人のやり取りを目の前で見ていた朱鳥と桃凛も、食べる手が止まっていた。
「夏生、そうやって思ってくれてありがとう。でも、今は食べないと後の日程が差し支える」
「ですよね…」
「こうやって楽屋でご飯を食べるのは最後だけど、食事会みたいなのは日程さえ合えばできるんだよ。だからそう寂しがらないで。せっかくのうどんが伸びたらおいしくなくなるだろ?」
「咲佑くんの言う通りですね。すいませんでした」
「いいんだよ。夏生、ありがとう」
「いえ。じゃあ、いただきます」
夏生は咲佑の前で太ったうどんを啜る。瞳には涙を浮かべているようだった。
時間までの間にそれぞれがルーティンを終え、出番五分前にスタッフの案内でステージ裏に行く。すでに客席からはコールがかかっている。会場ではNATUralezaの曲がカラオケの状態で流れているのに、それに負けじと声を出すファンたち。その声を聴きながら、五人は最後の円陣を組む。
「咲佑くん、準備できてますか?」
咲佑の左隣で肩を組む夏生が、音楽とファンたちの声に搔き消されないように問う。
「おう! バッチリできてんぞ! 朱鳥も、夏生も、桃凛もできてんのか?」
「俺たちもバッチリっす!」
三人は大きく頷く。
「凉樹は、盛り上がる準備できてんの?」
「この状況で盛り上げられないわけないだろ!」
「だよな!」
一番テンションが高い凉樹。隠しきれないワクワクが口調からはみ出ていた。
「最高の卒業式にしましょうねぇ!」
「だな!」
「咲佑くんが誰よりも楽しんでくださいよ!」
「おう! みんなも、楽しんでくれよ!」
「任せてください!」
「じゃあ、行くぞ!」
「っしゃぁー!!」
五人の表情は一片の曇りもなく快晴だった。ファンが作り出す熱気の中へ、五人は勢いそのままに飛び込んだ。
五人の登場を待ち侘びていたファンたちは、大きな拍手と歓声を上げる。大量のスポットライトが当たるステージで、ファンたちが持つペンライトに照らされて踊り出す。デビューしてすぐに立ったあのときよりも、輝きを放つ五人。その一瞬一瞬が、今日まで歩んできた道は、間違っていたわけじゃないことを示してくれているみたいだった。
二十歳越えの男たちには少し小さい楽屋。五人は身を寄せ合い、十八時からのイベントに向けて準備を着々と進める。そのころ、ちょうどキッチン側からは美味しそうな匂いがしてきていた。時計を見ると、十二時を過ぎたばかりだった。
イベント前の食事は五人揃って食べることが、デビュー当時から暗黙のルールみたいなものになっていた。誰かが強制したものでなく、たまたま食事の時間が同じだったために、自然とできた流れだった。その代わり、ご飯を食べる前と食べた後は相手の邪魔もせず、黙々と自分たちのルーティンをして過ごす。これがお決まりになっている。今さら変えることはできない。
「そろそろご飯食べるか」
凉樹が触っていたスマホを机に伏せる形で置き、ケータリングがある方向を指差す。朱鳥たちは返事をして、料理が並ぶスペースへ歩いて向かう。それぞれが好きな料理を皿に盛りつけ、テーブルに並べ、顔を見合わせながら食べる。
朱鳥や桃凛はおにぎりやサラダなど、自分の好物をどんどんと口に運んでいく。しかし夏生の手は止まったままで、うどんの麺が太っているような気がした。そのことに気付いた凉樹が納豆をかき混ぜながら聞く。
「夏生、うどん食べないのか?」
「いえ、食べますよ」
「食べないと伸びるんじゃないのか?」
「そうですね…」
「どうした? 元気ないな」
「元気ですよ。でも、楽屋で五人揃って食べるご飯も今日が最後なんだって思うと、なんか食べる気が失せちゃって」
「そうか」
凉樹は納豆の入ったパックをテーブルの上に置き、夏生の背中に手をやる。二人のやり取りを目の前で見ていた朱鳥と桃凛も、食べる手が止まっていた。
「夏生、そうやって思ってくれてありがとう。でも、今は食べないと後の日程が差し支える」
「ですよね…」
「こうやって楽屋でご飯を食べるのは最後だけど、食事会みたいなのは日程さえ合えばできるんだよ。だからそう寂しがらないで。せっかくのうどんが伸びたらおいしくなくなるだろ?」
「咲佑くんの言う通りですね。すいませんでした」
「いいんだよ。夏生、ありがとう」
「いえ。じゃあ、いただきます」
夏生は咲佑の前で太ったうどんを啜る。瞳には涙を浮かべているようだった。
時間までの間にそれぞれがルーティンを終え、出番五分前にスタッフの案内でステージ裏に行く。すでに客席からはコールがかかっている。会場ではNATUralezaの曲がカラオケの状態で流れているのに、それに負けじと声を出すファンたち。その声を聴きながら、五人は最後の円陣を組む。
「咲佑くん、準備できてますか?」
咲佑の左隣で肩を組む夏生が、音楽とファンたちの声に搔き消されないように問う。
「おう! バッチリできてんぞ! 朱鳥も、夏生も、桃凛もできてんのか?」
「俺たちもバッチリっす!」
三人は大きく頷く。
「凉樹は、盛り上がる準備できてんの?」
「この状況で盛り上げられないわけないだろ!」
「だよな!」
一番テンションが高い凉樹。隠しきれないワクワクが口調からはみ出ていた。
「最高の卒業式にしましょうねぇ!」
「だな!」
「咲佑くんが誰よりも楽しんでくださいよ!」
「おう! みんなも、楽しんでくれよ!」
「任せてください!」
「じゃあ、行くぞ!」
「っしゃぁー!!」
五人の表情は一片の曇りもなく快晴だった。ファンが作り出す熱気の中へ、五人は勢いそのままに飛び込んだ。
五人の登場を待ち侘びていたファンたちは、大きな拍手と歓声を上げる。大量のスポットライトが当たるステージで、ファンたちが持つペンライトに照らされて踊り出す。デビューしてすぐに立ったあのときよりも、輝きを放つ五人。その一瞬一瞬が、今日まで歩んできた道は、間違っていたわけじゃないことを示してくれているみたいだった。