俺はただのBLが好きな男じゃない。同性愛者だ。
メンズアイドルグループ NATUralezaのメンバーである米村咲佑は、昔からBL漫画が大好きな少年だった。地味で、誰からも相手にされない米村咲佑にとって、BLは生きる希望そのものだった。男性同士の恋に一途な思いを抱いていた少年は今、自分の周りで繰り広げられる日常に、羨望の眼差しを向ける日々を送っていた。
*
五人組アイドルグループNATUralezaは、新曲披露を終えたテレビ局の楽屋で、帰る支度をしていた。
「咲佑くん、明日の集合場所って居酒屋 緋廻でいいんっすよね?」
汗でぬれた髪をタオルで拭く水森朱鳥。染められたばかりの金髪から弾かれる汗は、鍛え上げられた身体に散る。
「そうだよ。ごめんな、明日仕事ある人もいるのに」
「いいよぉ。って、僕も明日オフになっちゃったんで、お休みなんですけどねぇ」
そう言ってきたのは最年少の葉山桃凛。出会った当時から変わらない、語尾を伸ばす癖。二か月後に二十歳を迎える桃凛だが、まだまだ可愛らしい一面を持ち合わせている。
「緋廻行くの久しぶりなんで、楽しみにしてます。
夏生が着替え終わったタイミングで声を掛けようとした咲佑だが、忙しなさそうにソファに置いていた黒のリュックサックを背負う姿を見て、声を掛けることは諦めた。
「先に帰ります。撮影行く時間なんで」
「夏生、明日無理しなくてもいいから。今撮影大変だろ?」
「咲佑くん、心配してくれてありがとうございます。でも、明日は午前だけなんで大丈夫です。まぁ、順調にいけば、の話なんですけど」
「分かった。じゃあ、また」
「はい。じゃあ、お先に」
楽屋に残る四人に手を振り、田村夏生は足早に楽屋を出ていった。
「夏生、最近忙しそうだな」
リーダーである石井凉樹が俯瞰的な感じで言う。その身体は汗で程よい感じに濡れている。今にも溶けてしまいそうなほどに白い肌。大きく開いた眼。高く伸びた鼻。整った輪郭。すらっと上に伸びた背。そのどれもが世の女性を釘付けにしている。
「そういう凉樹くんも忙しそうだけど、どうなんすか?」
着替える凉樹に、メイクを落としながら聞く朱鳥。
「俺? 俺は別に。まぁこのあともラジオ出て、明日はバラエティ番組の収録が二本入ってるぐらい」
「忙しいじゃないっすか」
「これぐらい忙しい部類には入んないし」
凉樹と朱鳥が戯れながら楽しそうに会話する様子を、どこか遠くからただ見るだけの咲佑。BLの要素が感じられる二人の存在が、どこか羨ましくて、どこか寂しくて、どこか物足りなくて…。そんな気分で埋め尽くされる。
桃凛は既に帰宅準備を終え、いつものようにスマホでゲームをやり始めていた。今の、この状況を、何も気にしないで過ごせる。そんな感情、咲佑はどこかに置き忘れてきたようだった。
一度でいいから俺もBLの主人公になってみたい。
そういう体験、してみたい。
メンズアイドルグループ NATUralezaのメンバーである米村咲佑は、昔からBL漫画が大好きな少年だった。地味で、誰からも相手にされない米村咲佑にとって、BLは生きる希望そのものだった。男性同士の恋に一途な思いを抱いていた少年は今、自分の周りで繰り広げられる日常に、羨望の眼差しを向ける日々を送っていた。
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五人組アイドルグループNATUralezaは、新曲披露を終えたテレビ局の楽屋で、帰る支度をしていた。
「咲佑くん、明日の集合場所って居酒屋 緋廻でいいんっすよね?」
汗でぬれた髪をタオルで拭く水森朱鳥。染められたばかりの金髪から弾かれる汗は、鍛え上げられた身体に散る。
「そうだよ。ごめんな、明日仕事ある人もいるのに」
「いいよぉ。って、僕も明日オフになっちゃったんで、お休みなんですけどねぇ」
そう言ってきたのは最年少の葉山桃凛。出会った当時から変わらない、語尾を伸ばす癖。二か月後に二十歳を迎える桃凛だが、まだまだ可愛らしい一面を持ち合わせている。
「緋廻行くの久しぶりなんで、楽しみにしてます。
夏生が着替え終わったタイミングで声を掛けようとした咲佑だが、忙しなさそうにソファに置いていた黒のリュックサックを背負う姿を見て、声を掛けることは諦めた。
「先に帰ります。撮影行く時間なんで」
「夏生、明日無理しなくてもいいから。今撮影大変だろ?」
「咲佑くん、心配してくれてありがとうございます。でも、明日は午前だけなんで大丈夫です。まぁ、順調にいけば、の話なんですけど」
「分かった。じゃあ、また」
「はい。じゃあ、お先に」
楽屋に残る四人に手を振り、田村夏生は足早に楽屋を出ていった。
「夏生、最近忙しそうだな」
リーダーである石井凉樹が俯瞰的な感じで言う。その身体は汗で程よい感じに濡れている。今にも溶けてしまいそうなほどに白い肌。大きく開いた眼。高く伸びた鼻。整った輪郭。すらっと上に伸びた背。そのどれもが世の女性を釘付けにしている。
「そういう凉樹くんも忙しそうだけど、どうなんすか?」
着替える凉樹に、メイクを落としながら聞く朱鳥。
「俺? 俺は別に。まぁこのあともラジオ出て、明日はバラエティ番組の収録が二本入ってるぐらい」
「忙しいじゃないっすか」
「これぐらい忙しい部類には入んないし」
凉樹と朱鳥が戯れながら楽しそうに会話する様子を、どこか遠くからただ見るだけの咲佑。BLの要素が感じられる二人の存在が、どこか羨ましくて、どこか寂しくて、どこか物足りなくて…。そんな気分で埋め尽くされる。
桃凛は既に帰宅準備を終え、いつものようにスマホでゲームをやり始めていた。今の、この状況を、何も気にしないで過ごせる。そんな感情、咲佑はどこかに置き忘れてきたようだった。
一度でいいから俺もBLの主人公になってみたい。
そういう体験、してみたい。