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「国語は作者の思惑で、答えが変わるんだよ」
「何が言いたいんですか」

 昼休み明けの教室は、まどろんだような空気が流れていて、授業モードに切り替えられていないクラスメイトたちのざわめきがまだ蔓延していた。
 だからこの問答は、拓斗たちしか聞いていない。
 拓斗と、日和と、先生の三人しか。

 当の日和は、信じられないものを見るような目で拓斗のことを見ていた。
 想い人との甘いひと時を邪魔されただけではなく、ひどく踏みにじられたような、被害者の顔だ。
 それもしょうがないと拓斗は思う。なぜなら、最初から踏みにじってやるつもりで声をかけたのだから。
 
「吉田くんは本当に問➁の話をしているのかな。もしそうじゃないとして、私がその‟問い”の作者になってもいいの?」
「……っ」

 そう言って涼しく笑ってみせるこの新任教師に、自分はどうしてもかなわない。心の中で、拓斗はそう呟いた。

「……意味わからん。やっぱり、人の気持ちなんて分からんわ」

 想い人(日和)が、自分に振り向くことがないことを知っているからこそ、拓斗の身を焦がすような苛立ちは増すばかりだった。

 ――どんな些細な変化だって、君のことなら、気が付くことができるのに。

「ほんまに、嫌いや。国語なんて」

 嫌いだ。嫌いで、嫌いで、たまらない。
 好きな人がいる時、世界は、沸々と茹だっている。


問➁ 傍線部aの感情を、本文から抜き出しなさい 【完】