見守りにきた野次馬たちは、声を出さずに花畑に入って来たブルーノたちを見ていた。

声は出せない筆談だ。
「ブルーノ緊張してるね。」
「そうね。」
「何、花摘んでるんだ?」
「あなた、ブルーノだって緊張しますよ。」
「緊張してんの?」
「花冠作ってたんだね。」
「あれ、私が小さい時にふたりて作ったわ。」
「作り方覚えていたんだね。」
「ブレスレット渡してるよ。」
「なんか嬉しそうでよかった。」
「あっ移動したよ。」
「真ん中まで行ったね?」
「あっ、始まったよ。」
こんな感じで野次馬たちは見ていた。


誓いの言葉が聞こえた。
ふたりが光に包まれる。
辺りも明るくなり眩しくて、直視ができない。
するとふたりの額に紋様が浮かび上がって、そして消えた。
ブルーノがシルキーナを抱きしめてキスをした。
野次馬たちは一斉に
「ほぅーっ。」とため息を吐いた。


大人数の野次馬の反対側にもうひと組。
側近を後ろに控えさせ、黒猫と並んでブルーノを見守る第一王子がいた。
「白猫、よくやったな。本当によかった。」
「白猫さんとお嬢さんは結婚したの?」
「そうだよ。あのふたりは夫婦になったんだよ。」
「おめでとうなのね?」
「そうだね。おめでとうだね。」
「じゃあ、今度来たらご馳走かしら?」
「そうだね。たくさんご馳走しよう。」
第一王子はふたりを見届けた後去って行った。

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ブルーノはシルキーナを抱きしめキスをした。

野次馬たちは一斉に
「ほぅーっ」とため息を吐いた。

んっ?誰かいる。それも、複数人だ。
離れていても、聖獣には聞こえた。
ブルーノとシルキーナはため息の方を見た。

野次馬たちはブルーノと目が合った。
結界は解けていない。姿は見えないはず。
でも、ブルーノたちがこっちに来る。
ブルーノの目が…怖い。少し牙が出てる。
どうする?どうしよう?とみんなが焦った。
その時、ヘンリックが魔力を発動した。
そこに居る野次馬たちと自分を瞬間移動させた。そこは西の森の入り口だった。


一瞬にして気配が消えた。
あの人数は?もしかして?アリーナたちか?
「逃げたにゃーっ!」
「誰ですかにゃん?」
「アリーナとヘンリックは間違いなくここにいたにゃ。もっといたはずにゃ。それに反対側にも誰かがいたにゃ。」
「もしかして、全部見られていたのですかにゃん?」
「そうかもしれないにゃ。」ふたりは顔が赤くなった。
ブルーノは気を取り直して、
「せっかく綺麗な花が咲いてるんだにゃ。もう少し見ていようにゃ。」
「はいですにゃん。この景色は一生忘れませんにゃん。」
空は青くとてもいい天気だ。
ブルーノはシルキーナの肩を抱いて花畑を見ていた。


森の入り口では、
アリーナとヘンリックは
「ふぅ、助かったー。」
「多分気付いただろうね。ブルーノはカンがいいし。」
「どうする?このまま帰る?それとも戻ってみる?さりげなく。」
「うーん。どうしようか?」

ホワイティス家は
「あの、やんちゃなヤツが…立派になって…グスッ…グスッ…。」
「あなた、またですか?さっきは堪えていたのに。」
「ブルーノかっこよかったね。」

アンダーソン家は
「アレがなぁーあんなにアレだったのに…それにまた、マーチスが泣いてるし…プッククッ。」
「あなた、またですか?さっきは堪えてたのに。」
「ヘンリックの魔法すごいなー。一瞬でパァッてなってさ。」

「さりげなーく、散歩しに来たよー花が咲いてるんだって?ーみたいにして行ってみる?」とアリーナがみんなに言った。
「僕行きたい!」
「そうだな。行ってみるか。」
また、野次馬たちは森に戻った。
クラークもついて行く。

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ブルーノとシルキーナが花畑を眺めていると
「あっブルーノだー!」
「おーい。ブルーノぉー。」
なんだか大勢ゾロゾロとやって来た。

アリーナとヘンリックは
「ブルーノ、こんなところにいたのね?」
「僕たち、森の入り口であってね。みんなで一緒に散歩をしてるんだ。」
棒読みになってしまった。

ホワイティス一家
「そうなのよーたまたま入り口で会ってね。ほほほっ。」
「たまには、散歩もいいかと思ってな。」
「花が咲いてるってきいたからねー?」
3人の目線は少し斜め下。

アンダーソン一家
「ほらぁ、私たちって友達だからね。だから一緒に来たのよ。ほほほっ。」
「そうなんだよ。たまたま来たんだ。」
「ほら、あの、ヘンリックが来そうだなーって思ってさ。」
妙にヘラヘラとしている。

クラークは
「私はたまたま、本当にたまたま、ここに来たら皆さんとお会いしまして…。」
姿勢がいいが、顔がこちらを向いてない。

みんな棒読みの言葉。
嘘が下手な野次馬たちだった。

「へーそうなんだにゃー?たまたま入り口であったのかにゃー?みんながかにゃ?偶然もいいとこだにゃ?」とみんなを睨んだ。
みんなが一歩後ずさる。
「さっきは誰の気配だったんだろうにゃー?
大人数だったにゃー。9人はいたにゃ。」
もう一度睨む。
もう一歩後ずさる。

そこでアリーナとヘンリックが
「あらー花の冠してるのねー。可愛いわ。」
「そうだね。とてもよく似合ってるよ。」
「可愛いといえば、シルキーナって可愛い名前ね?」
「あっ!」ヘンリックが変な声を出した。
「はっ!!」アリーナも。
「何で知ってるにゃー?」
「……。」
「……。」
「見てたのかにゃー?」
「あっ……ごめん……。」
「どこからどこまでかにゃー?」
「ぜ、全部…。です。はい。」
ブルーノとシルキーナは赤くなる。
「だって、だって心配だったんだもの…。」
「ごめんね。僕たちみんなブルーノたちが心配で。」
ふたりが下を向く。
ブルーノは赤い顔のまま、
「そ、そうかにゃ…。どうしてここがわかったんにゃ?」
ディビッドが
「僕が黒猫に教えてもらったんだよ。それでお母様に教えたんだ。」
そして昨日の「決行」と「西の森の花畑」がどうみんなに伝わったのかが大体わかった。
折り返し地点は第一王子。

「みんな、おしゃべりだにゃ。」
ブルーノは反対側にいたのは第一王子と黒猫だったんだなと思った。
「みんなはブルーノたちを見守りたいと思ったんだよ。ごめんね。」とヘンリックが謝る。
「じゃあ、今日はーご馳走が食べたいにゃー。それで許してやるにゃ。」
「よし、ご馳走だね?お肉にお魚にお菓子に
たくさん用意しようね。」
「そうか?嬉しいにゃ。」
「私も嬉しいですにゃん。」

みんな、とてもいい顔で笑った。


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皆さん、お気付きになっているかもしれませんが。
シルキーナはブルーノと同じくよく食べます。
よーく思い出して下さい。
ブルーノが食べている時、いつも一緒に食べてますよね?

聖獣はそもそも魔力を持つので、それを維持するには食べないといけないんです。
どんなに食べても太りません。
羨ましい。

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先に帰国をしたホワイティス伯爵は
第一王子への報告通り、シルキーナにつけられていた首輪を販売している闇ギルドの調査をした。そして、販売リストからシルキーナを捨てた人物を特定した。

その人物はお婆さんの息子ではなかった。
お婆さんは天外孤独で家族や親戚はいなかった。
一人暮らしのお婆さんはお金持ちだった。
その、息子と名乗った男はお婆さんの財産を狙っていた詐欺師であった。
財産を横取りするにはお婆さんの使い魔が邪魔だった。
お婆さんが亡くなり、使い魔の役目が無くなったのをいいことに、息子と名乗り出て、お婆さんの家の整理をし、金目の物や家を売り、そのお金で外国に逃亡した。
家を整理する際にお婆さんの遺書があったがそれは処分した。遺書にはお婆さんが亡くなったら、財産はシルキーナに全て相続させるというものだったからだ。
その事がバレるとシルキーナは邪魔になると考え、あの首輪を着けさせて港において逃げた。
逃げた先で、また詐欺を働き捕まって牢屋に入っていた。

その男には、幾つもの詐欺罪、窃盗罪、文書偽造などの罪があったので、逃げた先でその罪を償うことになった。極刑は避けられないだろう。

闇ギルドは伯爵の調査により違法行為が立証され摘発され多くの罪人が捕まった。

シルキーナが、密猟者に捕まらなければ…。
もう少し保護が早ければ…。
ブルーノも同じだ。
何事もなければドゴール山にふたりとも住んでいただろう。ドゴール山で、普通にブルーノとシルキーナは出会ったかもしれない。
もしかしたら最初からブルーノとシルキーナは出会う運命だったのかな?とホワイティス伯爵は思った。


さて、ここでホワイティス伯爵の仕事を紹介しよう。
彼はホワイティス領の領主であり
魔法騎士団第二部隊に所属している。

この部隊はアンダーソン公爵が団長をしている魔法騎士団で表の仕事を主にする第一部隊、それに対して表に出ない裏の仕事をする部隊が第二部隊と別れている。

第二部隊は主に国内外で秘密裏に行われる捜査、尋問で時にはスパイまがいのこともする。
人数は少人数で精鋭揃い。
彼はその部隊の隊長であった。
制服はあるが、ほぼ着る事はない。
外国では公式行事の時は仕方なく制服を着るがほとんどの人に役職が知られる事はない。

夫人はもちろん知っているが、娘のアリーナは知らなかった。というか、教えられていない。
アリーナが父の制服姿を見た事がなかったのはそういう理由があった。


いつもの伯爵は隊長としてとても厳しいと隊員は言う。しかし、仕事を離れれば普通の話のわかる優しいお父さんだ。

ちょっと泣き虫なのは、魔法騎士団第二部隊の隊員は知らない。