ヘンリックはブリーズ国で、ある情報を得た。
この国の第一王子に魅了の力で婚約破棄をさせ自分が婚約者になりかわろうとした魔女がいた。将来、王となる第一王子と結婚して自分が王妃になり国を乗っ取り贅沢な暮らしをしたかったらしい。彼女は学校で第一王子に擦り寄り魅了の魔法を使い籠絡させようとした。しかし、強い魔力を持っている第一王子の婚約者に見破られてしまった。拘束され投獄されたが、魔女は牢屋から逃げてしまう。
その頃、夜会に出席していた第一王子や第二王子、側近その婚約者達が行方不明となった。人数は8人。そして、逃亡した魔女も。捜索はしているものの今だに見つかっていない。

ヘンリックは考える。
8人の行方不明者。8個の石。
数は合っているが…。ただそれだけの事。
でも、もし関係があるとしたら?
ヘンリックはブリーズ国の国王に謁見を申し込んだ。

国王との謁見であの石の話と行方不明者について確信は無いものの関係があるのかもしれないと伝えた。
国王は息子達をどうしても探し出したかった。
どんな些細な事でも手掛かりが欲しかった。
すぐに王宮魔法師団長を呼びヘンリックに話の内容を説明させた。

魔法師団長によれば、王宮や学校を捜索したところ何らかの魔法を使ったわずかな形跡あった。しかしどのような魔法かはわからなかった。おそらく痕跡を消す魔法を使ったのだと言う。このような事をしたのは逃亡中の魔女ではないかと疑ってる。
もし、その石が行方不明の第一王子達であれば呪いを解き救わなければいけない。
魔法師団長は呪いをかけた者が解除すれば1番早いがその魔女を探し出すにも今のところ手掛かりはないという。

国王は、魔法師団長にヘンリックと共にグラン国へ行きその石の正体を確かめ、呪いの解除を命じた。
そして「君の上司には伝えておこう。もし石が
私の息子達であったのなら助けてほしい。どうかよろしく頼む。」とヘンリックに言った。
「かしこまりました。」
2人はさっそくブリーズ国を立ちグラン国へ向かった。

ブリーズ国は少人数の場合に限り、移動は空間魔法を使うことが出来る。
空間魔法には制約があり決まったゲートにしか移動が出来ない。ゲートの使用は今のところ同盟国間のみだ。
グラン国までは距離があるためブリーズ国の同盟国のゲートを3箇所ほど経由して行く。グラン国へは2日ほどで到着できる。
来る時は馬車や船などの移動で10日ほどかかったがそれを2日で移動が可能とは…。
へンリックはさすが魔法大国だと感じた。

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アリーナは帰宅後、学校での事をブルーノに話した。
編入して間もない女の子。急にほとんどの男子生徒が彼女に陶酔する。一部の男性教諭もだ。おかげで、授業も上手く進まない。婚約者同士の諍いも多くなった。いずれ婚約破棄騒動に発展するだろう。
男子生徒は、「彼女は特別だ。」と言うらしい事も。確かに可愛いけど。でも…。
そんなマリンに友達になってほしいと言われたことも。

「マリンに友達になるのを断ったら周りの男子に怒られたんだよ。あれは怖かったな。でも、その時に女子達が庇ってくれてなんとかなったけど。断り続けたら男子になんかされそうで心配なんだ。」
ブルーノは「マリンって子と男子達は変なヤツらだにゃー。」
「おかげで男子と女子に壁ができてしまって、居心地が悪いんだよね。でもね、おかしくなったのは全部の男子ってわけでもないんだよ。一部の男子、第一王子とかその側近の人とかはマリンのことさほど思ってないみたい。王族だから近くで見た訳ではないけど。」
「ふぅ〜ん。そうにゃのか?」
「むしろ嫌ってる感じ。」
「へぇ〜。」ブルーノは何か考えている。
「それと石は今日どうだった?」
「相変わらず話をしてたけど今は箱の中にゃ。」
「可哀想だけど、明日も箱の中にいてもらいましょう。」
「そうだにゃ。」

次の日、ブルーノは昨日アリーナが言っていたことが気になって猫の姿で学校に行った。

「あの子がマリンだにゃ。」男子を侍らせたマリン達を裏庭で見つけて後を追う。
マリンのまわりに小動物も集まっている。
遠くにいてもわずかに魔力が感じられる。

どこから魔力が出てるのかにゃ?
これは、異性に魅了をかける魔法だにゃ。

近くに行くとマリンの胸元から魔力が出ているのを感じる。

あのネックレスは強力な魅了の魔道具にゃっ!こいつらみんな魅了にかかってるんだにゃ!

魅了の魔道具はこの国に持ち込むことも使用することも禁止されている。ブルーノはマリンから離れようとした。その時、マリンと目が合った。
「まぁ可愛い猫ちゃん。こっちにおいでー。」と手を出した。
ブルーノは慌てて逃げた。

ふぅ。バレたかと思ったにゃ。

マリンは唖然として「あれ?効かない。」そう呟いた。マリンの魅了は動物にも効くのだ。

オレには魅了は効かにゃいのにゃー。
神獣に魅了は効かない。

周りにいた男子達は「マリンは動物達にも好かれるんだね。まるで女神のようだ。」そう言ってマリンをうっとりとした目で見ていた。

あいつら魅了にかかって操られてるにゃ。
アリーナになんかしたら許さないにゃ。
でもなんでアリーナに近づくんだろうにゃ?

ブルーノは学校の裏庭から校舎に向かう。
渡り廊下で王族と側近らしい数人の男子を見つけた。そっと近づくとこちらを見た。
側近らしい男子はブルーノを警戒をしている。
王族と思われる男子が「お前、誰かの使い魔か?それとも野良聖獣か?」と言った。

オレは野良じゃにゃーし!!
ちゃんとご主人いるっつーの!!
ブルーノは神獣だとバレた事よりそっちの方が悔しかった。

仕方なく普通の猫の様に「にゃーん」と鳴いてみた。「普通の猫のふりか?」そう言って抱き上げる。

こいつにはバレてるにゃー。

その時、ブルーノはその男子の胸元に違和感を覚えた。胸元に前足を付ける。これは攻撃魔法を弾く魔道具だ。

もしかして、これであの魅了を弾いていたのかにゃ?
さすが王族、最高級品だにゃ。

普通の猫のふりを続けながらブルーノは
小さな声で「また来るにゃん。」と言った。
王族の男子は驚く事もなく「ああまってるぞ。今度くる時はこの校舎にある執務室に来い。何か好物を用意しよう。」  
「じゃあ、肉とお菓子だにゃ。」と言い、腕をすり抜け、走って学校から出て行った。