グラン国の北に聖獣や精霊が棲む山がある。
夏でも山頂には雪が積もり人を寄せ付けない山だ。
人々はこの山をドゴール山と呼び、聖なる山として崇めていた。

近年、聖獣はオークションで高値で売買されるため密猟者が入り込むことが度々あった。
山の麓には集落がありそこに住む民は聖獣を守るため領主に陳情をした。
領主は騎士を派遣して山のパトロール、密猟者の捕縛、聖獣の保護をさせた。

それでも完全に守ることができず密猟者か聖獣を捕まえて連れて行ってしまうこともあった。

まだ、子供の小さな聖獣が罠にかかり密猟者に捕まってしまった。
小さな聖獣は足に怪我をし首に魔力を使えなくする首輪を着けられて逃げることが出来なかった。檻に入れられ馬車に乗せられ何処かに連れて行かれた。
連れられてたどり着いた場所には、いくつもの檻があり中には各地で捕えられた聖獣が入っていた。それはオークションにかけられる聖獣たちだった。

しばらくして、餌を与えられ子供の聖獣は
お腹が減っていたので警戒しながら食べた。
うっえぇーまっずー!!美味しくなーい!!
口に合わなかった。でも食べるしかなかった。

2日ほど経っただろうか、聖獣の檻がどんどん運ばれて行く。
子供の聖獣の檻も運ばれ馬車に積まれて何処かに連れて行かれた。
そこは地下にある大きな会場にある舞台の上だった。ここでオークションが行われ聖獣は買われて行く。会場には沢山の人が入りオークションが始まった。

「さあ、こちらの聖獣は南の火山ブースト山で捕まえたファイヤーバードです。美しいでしょう。それでは、500ゴールドから始めます。」
「600ゴールド」
「800ゴールド」
「1300ゴールド」
「他にはいませんか?」
「2000ゴールド」
「出ました2000ゴールド!!」
「他にはいませんか?いませんね?ではこちらを2000ゴールドで落札です!!」

会場の入り口付近で何やら騒いでいる。
「魔法騎士団だ!逃げろー!!」
「手入れが入った、逃げろー!!」
「きゃー!!」「わぁー!!」
「出入り口はすべておさえてある。観念しろ。」
「私は魔法騎士団長アンダーソンだ!聖獣の売買は禁止されている。ここにいる者は全て逮捕する!!」

逃げる人、それを捕まえる騎士、人々が騒然となった。
その中でニコニコと笑いながら檻に近づく人がいた。「もう大丈夫だ。山に戻してやるからな。」そう優しく声をかけた。

檻に入った聖獣達は首輪を外され餌を与えられた。それはとても美味しい餌だった。
うんまっ!!子供の聖獣は夢中で食べた。
「よしよし沢山お食べ。」さっきの人がヨシヨシと頭を撫でてくれた。そして足の怪我の手当もしてくれた。

その後、聖獣達は元いた場所に戻された。子供の聖獣もドゴール山に帰ることが出来た。そこでめでたしめでたしではなかった。

子供の聖獣は山に帰り暮らしていた。
あれから数年が経つ。
時々、あの時のご飯美味かったなーまた食べたいなーと思うようになった。
ある日、山の中を歩いていた。するとどうした事かあのご飯が落ちていた!
聖獣は警戒もせずにかぶりつく。
するとあろう事かそれは狼を捕まえる罠だったのだ。足に縄がかかり木にぶら下がる。
それでも聖獣はご飯を離さないでモグモグと食べる。もう夢中で。
食べ終わると聖獣は自分に何が起きたのかやっと気づいた。
ぶら下がってるー?足が痛い!!
このままじゃまた捕まっちゃうー。
そこで聖獣は縄を噛み切った。ぶら下がっていたので当然落下する。頭から落ちそこに大きな石があった。足も痛いし頭も痛いしクラクラする。ここにいたら捕まる。
フラフラしながら聖獣は歩き出した。
丁度、馬車が止まっていて誰もいなかった。
そこで、聖獣は荷台に乗り込み荷物の影で休むことにした。次第に意識を無くして眠り込んでしまった。

その馬車は山の向こうの街からやって来た商人の馬車でこちらの街まで商品を運んでいた。
途中、商人は珍しい薬草を見つけて馬車をそのままにし少し奥の方まで行き薬草を摘んでいた。やがて薬草を沢山持って荷台に乗せ馬車を走らせた。夕方に街に着いた。まず商人は先程摘んだ薬草を薬屋に持って行った。

そのちょっと前に目を覚ました聖獣は馬車が動いている事に気がついた。
うっわぁどうしよう?このままだと驚かせちゃうなぁ。そうだ猫に姿を変えてーここを抜け出そう。

そして、馬車が止まり聖獣は猫の姿で抜け出した。しかし、ここは何処だろう。建物がたくさんあって人もたくさんいる、なんか怖い。
夢中で走った。何処をどう走ったかはわからなかった。足が痛い。喉渇いた。お腹減った。
走った先に高い壁があった。
この壁の向こうなら人はいないかも?そう思って壁を乗り越えた。そこはいくつかの木があって花が咲いていた。小さな池もあった。
聖獣は池で水をのみ喉を潤した。そして近くの大きな木の下で倒れるように寝てしまった。

翌朝、小さな女の子が木の下で寝ている猫を見つけた。女の子は猫を抱いてお母さんの所へ連れて行った。お母さんは女の子に薬と包帯を持ってきて2人で手当をした。
その時、お母さんはこの猫は普通の猫ではないと気づいていた。
しばらくして猫が目を覚ました。女の子は
猫にご飯をあげた。猫は夢中でご飯を食べた。
うんめぇっ!
やがて猫は元気になり女の子と遊日楽しい日々が続いた。

しばらくした頃、女の子のお父さんがやって来た。猫はお父さんを見て驚いた。あの時の美味しいご飯をくれた人だ。お父さんも何か気づいていた。

女の子は小さいのでお昼寝をする。そろそろお昼寝の時間だ。
女の子がお昼寝をしてる間、お父さんとお母さんが猫に話をした。
「君はドゴール山に棲む聖獣だね?どうして街に来たんだい?」
「やっぱりわかってたんだにゃー?なんだか知らないうちにここに来ちゃったにゃ。」猫は山から来た経緯をお父さんとお母さんに話した。
そして、数年前にお父さんに助けてもらったことも話した。
「あの時の聖獣か?そうかそうか。」そういうと嬉しそうに撫でてくれた。
「あの時と違って大きくなったんだにゃ。」そういうと元の聖獣の姿になった。
少し毛足が長くて白い毛、ところどころに青い毛があり金色の目、鋭い牙、大きな身体。
「ドゴール山にしかいない聖獣雪豹だね。大きくなったね。助けてよかった。」とお父さんは嬉しそうだ。
「この姿はまだあの子には見せない方がいいと思うわ。ちょっと大きいし怖いもの。」お母さんが言った。
すると聖獣は猫になった。
「猫のときは話せるにゃ。」
「ところで君は山に帰らないのかい?」
「うーんそうなんだけど…あの女の子は魔力があんまりないにゃ。だからオレが守ってあげたいと思うんにゃ。だめかにゃ?」
「あの子には魔力があんまり無くてね私は少し心配なんだよ。あの子を守ってくれるならここにいていいよ。」
「よし、オレがあの子を守るにゃ。」
「私の名はマーチス・ホワイティス、伯爵だ。こちらは妻のフローリアだ。これからよろしくな。」
「オレは名前は無いにゃ。オレ達聖獣は使い魔になるときに主人に名前をつけてもらうにゃ。」
「そうだったな。ではあの子、アリーナに名前をつけさせよう。いいかい?」
「わかったにゃ。」

そして、アリーナに「ブルーノ」と名前をつけてもらいブルーノはアリーナの使い魔になった。

後にブルーノはこのホワイティス伯爵がドゴール山を含む領地を治める領主でありグラン国の役人だと知ることになる。
役人って言ってもただの役人ではないみたいだにゃ。