舞踏会の会場入り口までやって来たヘンリックとアリーナ。
ふたりは腕を組んで待っている。
「緊張してきた。」
「アリーナ深呼吸して。僕がついてるよ。」
名前を呼ばれる。
「ヘンリック・アンダーソン公爵令息とアリーナ・ホワイティス伯爵令嬢。」
「はひっ。」
「ふふっ大丈夫だよ。さあ、行くよ。」
ドアが開いて中に入る。
会場の天井には大きく豪華なシャンデリアが幾つもあった。たくさんの花が飾られて華やかな空間だ。楽器を演奏する人、料理や飲み物運ぶ人、多くの招待客がいた。
「わぁ…眩しいわ。」
「アリーナの方が眩しいよ。」
「そうかしら?」
「僕たちはそれぞれ家族で招待されてるから国王へ挨拶は別々になるかもしれないね。」
「離れたくないな。」
「それは、僕だって一緒だよ。」
「ヘンリックの家族は?」
「もう来てるはずだけど…。」辺りを見回す。
すると向こうの方から
「ヘンリックーこっちこっち。」と手を振る男の人が……。ビルバーグだ。
ビルバーグは弟が大好き。ブラコンのビルバーグにとってヘンリックを探すのは朝飯前だ。
「あっ兄さんだ。」
「ビルバーグ様、こんばんは。」
「こんばんは。アリーナ今日も綺麗だね?」
「ありがとうございます。」
「ヘンリック。今日は一段とかっこいいなぁ。アリーナもそう思うでしょ?」
「ふふっそうですね。」
そこに「こんばんは、アリーナ嬢。デビュタントおめでとう。」ヘンリックの父がアリーナに言った。
「本当に、おめでとう。お母様に似てとても綺麗だわ。」ヘンリックの母が微笑んだ。
「おじ様もおば様もありがとうございます。」はにかんで挨拶をした。
そこへ、ホワイティス一家がやって来た。
「アンダーソン公爵こんばんは。」
「おお、マーチス。こんばんは。」
「今日はめでたいなぁ。」
「そうですねぇ。」少し元気がない。
「もう、マーチスったらさっき、アリーナを見て泣いちゃったのよ。」
「ほう。マーチスがか?」
「だって俺の娘がこんなに大きくなったんだぞ。おまけに妻に似て綺麗だし。来年は嫁に出すなんて嫌だ。」
ヘンリックはギョッとして
「あのー僕とアリーナの結婚はだめでしょうか?」
「出来ればやりたくない。」
「それは困ります。」
「お父様困ります。」ヘンリックとアリーナは口を揃えてそう言った。
「あなた、2人のために我慢して下さいな。アリーナが行き遅れになったら困るでしょ。」そう言いながらアリーナの母は夫の背中を撫でてあげる。
「だって、だって」
「もう、仕方ない人ねぇ。よしよし。」そうなだめる。
「あらっブルーノ?背が伸びたのね。かっこいいわよ。」ヘンリックの母がブルーノに言った。
「ありがとうにゃ。オレはこの服とても気に入ってるにゃ。」
そこでヘンリックの父は下を向いて小さな声で
「野良にも衣装。プッ…クククッ。」と笑っていた。


そして、国王に挨拶をする順番がきた。今回はアンダーソン公爵一家とホワイティス伯爵一家が揃って挨拶をする。
国王と王妃、それに第一王子に第二王子か高いところで座っていた。
国王は「アンダーソン卿、ホワイティス卿。この度の事件解決に尽力をしてもらい感謝する。ブリーズ国王からも感謝の書簡とお礼が届いていおるぞ。」
「ありがたき幸せに存じます。」
「そしてアンダーソン卿の息子にもお礼が届いておるぞ。」
「ありがたき幸せに存じます。」
その間、第一王子はブルーノをじっと見ていた。
ブルーノも第一王子をじっと見た。しばらく、お互いに目を合わせていたがブルーノが先に目を逸らした。
そして「陛下少しよろしいでしょうか?」と第一王子が発言した。
「なんじゃ?」
「最近私に友達ができましてね。その友達にそこの使い魔ブルーノがとっても似ていましてね。」
とにこやかな笑みで言った。
ブルーノは冷や汗が出た。目線をどこに持っていけばいいのか?
マリーナは下を向いて顔を赤くしていた。
「ブルーノと話をしたいと思いますがいいでしょうか?」
「そうか、別室で話すといい。使い魔はとても珍しいからのう。」
「ありがとうございます。では、後ほど呼びにいかせることにします。いいね?ブルーノ?」
ブルーノはそれを聞いてピンッと耳を出してしまった。
アリーナは「ブルーノ、耳、耳」と小さな声でブルーノに言った。
ハッとしてブルーノは手で耳を押さえ下を向いて「はい。」と小さな声で答えた。
ホワイティス一家は苦笑いをしていた。
それをアンダーソン公爵は可笑しくてたまらなかったがなんとかポーカーフェイスん保ち堪えていた。腹の中では大笑いをしていた。
「それでは今宵の舞踏会を楽しんでくれ。」国王がそう言った。

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「ちょっとブルーノさん。どうするんですかー?」
アリーナがブルーノに冷たく言った。
「どうしよう。アリーナ。きっとバレたにゃ。」頭を抱えてる。
「耳が出ちゃうほど緊張したんだね?第一王子は怒ってないようだし大丈夫だよ。」
「ブルーノはねーご飯もらいに何回も第一王子のところに行ってたのよ。野良のフリして。私の使い魔だって知られたら恥ずかしいでしょ。」
「だって行くとご馳走だしてもらえるんだにゃ。当然行くにゃ。でも、オレは野良とも使い魔とも言わなかったにゃ。」
「へぇ野良のフリしてたの?」ディビットがアリーナにきく。
「そうよっ!そうよね?ブルーノさん!」
「アリーナ、あんまり怒ると美人さんが台無しだよ。ほらー機嫌なおして。」
「うん…。」
アリーナはヘンリックに宥められた。

ヘンリックの父とアリーナの父は
「やっぱりバレましたね。」
「そうだろうな。第一王子はカンがいいからなぁ。」
「まぁこの間のサーカスの件も第一王子とブルーノのおかげで摘発できましたからね。」
「そうだな。」
「これで野良扱いは終わりですね。」
「そうだな。プッ、クククッ。さっきの思い出しちゃったよ。アッハハハ。耳がぴょんって…プッククッ…」
爆笑だ。
公爵の笑い上戸は健在だった。