ブルーノは第一王子に会うためにちょくちょく学校へ行っていた。
もちろん、美味しいお肉とお菓子が目当てだ。
今日のお菓子はなにかなー?

「やあ、また来たのかい?」王子は嫌な顔もせずにブルーノを迎え入れる。
「今日はマドレーヌを用意していたよ。沢山あるからお食べ。」そう言いお菓子を出してくれた。
ブルーノの目が輝く。
そしていつものようにかぶりつく。

「ねぇ君、名前はあるのかい?そろそろ教えておくれよ。」
「嫌だにゃ。オレの名前があるとか無いとか教えにゃい。」
名前があることを知ったら誰かの使い魔だとバレてしまう。王子はそれを知っているんだ。

「そうかい?私は君を友達だと思ってるから名前が知りたかったんだ。呼ぶときに不自由だろう。」
「友達か、じゃあ白猫とでもよんだらいいにゃ。」
「白猫ね。わかった、これから白猫とよぼう。」

「これから学校が夏季休暇だからここに来ても私はしばらくいないよ。その間は王宮に来ればいるけど来るかい?」
「王宮かにゃ?オレが入れるのかにゃ?」
「普通は入れないけど抜け道を教えておくよ。」
「そんなもんオレに教えていいのかにゃ?」
「白猫は友達だからいいよ。」
「じゃあ行ってやるにゃ。オレはお前の友達だからにゃ。」
そして第一王子は抜け道と部屋を教えてくれた。

「誰にも言ってはいけないよ。」
「わかったにゃ。オレは口が硬いから大丈夫だにゃ。」
ブルーノはちょっと嘘をついた。
「ご馳走を用意してまってるからね。お腹が減ったらおいで。」
第一王子はやっぱり野良だと思ってるようだ。

「沢山用意して待ってろにゃ。」
「沢山だね?」
「そうにゃ。じゃーオレはもう行くにゃ。」
「待ってるよ。」
ブルーノは窓からサッと降りて学校を後にした。それをにこやかに第一王子は見送った。

王宮かぁ。どんなご馳走がでるのかな?
ブルーノは食べることばかり考えた。
そして、ちょくちょく王宮に通うようになる。



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ある日のこと。
ブルーノはまた性懲りも無く第一王子の所へ行こうと街を歩いていた。
今日は何かなー?楽しみだなー!
頭の中は食べることばかりだった。

ブルーノはご機嫌で建物の屋根の上を歩きながら王宮を目指していた。
すると裏路地の建物の間から声が聞こえた。
男が手に小さな生き物を持って
「せめて、芸でも出来ればまだ良かったのに。」
「この有様じゃもうダメだな。」ともう1人の男が言う。
「その辺に捨ててしまえ。」
「そうだな。」そう言っている。
男の手にいる生き物は小さくてボロボロに見えた。
ブルーノは昔人間に囚われて売られそうになったことがある。
きっとあの生き物もそうなのだと思った。
ブルーノはその男たちの後を付けて人気のない所まで行くと男たちからその生き物を奪った。
男たちは驚いたが「まあ、あれはいらないからちょうどいい。」そう言って何処かに行ってしまった。ブルーノは素早く屋根に登りくわえていたその生き物を下ろした。

真っ黒な毛でかすかに開いている目は金色だった。ご飯もまともに食べさせてもらえなかったのだろうガリガリだった。そしてあちこちに傷があり血が出ていた。声も出せないようだ。なんて、酷いことをするんだ。しかもこの子は聖獣だぞ。なんでこんな所にいるんだ?
まずは手当をしないとこの子は死んでしまう。
家に帰るより第一王子の所ならば近い。ブルーノは優しく口にくわえて王宮を目指した。

そして、ブルーノは第一王子の所へやって来た。
「どうしたんだい。その子は?」
「悪い奴から奪ってきたにゃ。とにかく手当をしてほしいにゃ。」
そう言うと第一王子にその子を差し出した。
第一王子はすぐに医者を呼んで手当てをした。
なんとか一命は取り留めたようだ。


そして、ブルーノはこの子を連れてきた経緯を第一王子に言った。
「この子は聖獣だね?どうしてそんな所にいたんだろう。」
「きっと人間に捕まって連れてこられたにゃ。あいつらをやっつけて凍らしてやりたかったにゃ。」
「そうなんだね?もっと取り締まりをしないといけないな。よし、私がなんとかしよう。白猫、この子は何処で見つけたんだい?」
「見つけた場所を教えるにゃ。」

そして第一王子は側近を呼んで、何やら話をしている。
ブルーノは子猫の様子を見ていた。
「もう大丈夫だにゃ。安心して寝るにゃ。」そう言って頭を舐めてあげた。
「みゅぅ…。」そう子猫が小さな声で鳴くとスヤスヤと寝てしまった。

「お前にこの子を頼んで大丈夫かにゃ?」
「ああ、私が責任を持って面倒をみよう。」
「さすが友達だにゃ。ありがとうにゃ。」
それからは前より頻繁に王宮に通うようになった。

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3週間ほど経った頃
ブルーノは第一王子の所にやって来た。
あの子は元気になったかなー?
その頃には食べ物より子猫が気になっていた。

第一王子は「来たのかい?」相変わらずニコニコしてブルーノを迎える。
「チビは元気になったかにゃ?」
「あぁ日に日に良くなってるよ。もう普通のご飯も食べられるようになったし傷も綺麗になったよ。」そう言いながら子猫が入った籠を見せた。
ブルーノは籠の中で寝ている子猫を見ながら
「よかったにゃ。」そう思った。

「白猫のおかげでこの子を捨てようとした者を捕まえたよ。サーカスで珍しい聖獣たちを見せ物にして芸をやらせていたんだ。そこにいた聖獣たちは酷い環境で飼われていたらしくてね。弱っていた子もいたみたいだ。もちろんちゃんと手当てをして元の場所に帰したよ。昨日、サーカスの聖獣入手先に調査を入れた所なんだよ。今回は君のおかげで沢山の聖獣が助かった。ありがとう。感謝する。」そう言ってブルーノに頭を下げた。
「王子様は頭を下げちゃだめにゃ。オレはあの子を助けただけにゃ。他の聖獣はお前が助けたんだにゃ。それこそ仲間を助けてくれてありがとうだにゃ。」
「白猫、これからも私と友達でいておくれ。」
「あったりまえだにゃ。」


「あの子猫の体力が戻ったら魔力も戻るにゃ。
そうしたら喋ることもできるにゃ。」
「そうなのかい?」
「あの子は南の火山のあたりに棲むファイヤーキャットだと思うにゃ。強い赤魔力を使う聖獣にゃ。」
「へぇ。喋れるようになるのが楽しみだ。」
「そうだにゃ。」