「じ、じゃぁ、桜庭は、その、空いた席な。‥‥‥‥あーっと、東雲(しののめ)。の、隣だ」

緊張がほぐれたのか、灰色が薄れて元の丹色(にいろ)に戻った先生の声が、私の名を呼ぶ。



えええ、わ、私、ですかっ‥‥‥‥!?



人見知りな私は、なんだか怖くなってしまって。

ぎゅっと目をつむったまま、彼の足音を聴く。





____。


とん、と。

足音が止まる。





「____っ」



顔を上げると。

彼と()が合った。





どうしよう。どうしよう。

なにを言えばいいんだろうか。

こういうとき、どうしても頭の中が真っ白になってしまって、途端に言葉が出せなくなってしまう。



緊張でギシギシうるさい心臓の音と、なにもできない自分が腹立たしい。

なにか言わなくちゃと思うけど、ぱくぱくするだけでなにも出てこない。





「きみ、が、東雲さん?」

卯の花色の声が、また耳元をかすめる。



窓際の、1番後ろ。

隣は、私だけ。





「は、はい‥‥‥」


緊張で()びたみたいにカチコチになってしまった首を、どうにかこうにか動かしてうなづくことに成功する。


かたん、と椅子が引かれて。隣に座る。




「桜庭 奏です。‥‥‥これからよろしくね」


律儀にも、2度目の自己紹介をしてくる。

さっきよりも、近くで。





「は、はい‥‥‥‥」



やっぱり、きれいな色。

ずっと見ていたいくらいに。