「今日はね、転校生がね、いるんですけれどもね」と。
丹色の声で、担任のハゲおじさんが言う。
いつもより灰色がかっているところをみると、ちょっと緊張しているのかな。
緊張したときの声は、私には灰色がかって見える。
その度合いが増すにつれて、灰色に近くなっていく。
「ど、どうぞ‥‥‥‥」と、さっきよりも灰色になった声。
ざわざわ‥‥‥‥と教室がどよめく。
ああ。嫌だ。
うるさい。
嬉々とした、いろんな鋭い色が、眼に刺さって痛い。
うるさい。
うるさい。
ヘッドフォンの上から手を当てがって、耳あての部分をさらに密着させるようにぎゅうっと押し込む。
そうして目をぎゅっと強く。強くつむる。
そうすると、音が遠くなる。
色がぼやけて刺さらなくなる。
ああ、楽____。
「桜庭 奏です」
____閉ざされた世界に。
「東京から、来ました」
____新たな色が咲く。
「よろしくお願いします」
薄く、限りなく白に近い、水色。
卯の花色の、心地のいい声が。耳元をかすめる。
「わ‥‥‥‥」
顔を上げた彼は、今まで見たどの人よりも、甘くて。やわらかい。
やさしい、色をしていた。