「____ノ、シノ」


「は、はい!!」



黒板を消すことに集中しすぎて、全然聞こえていなかった。

振り向くと、桜庭君のネクタイが目の前に。




「手伝う」


彼はそれだけ言うと、上の部分を消してくれた。

黒板消しの擦れる、乾いた梅色がにじむ。





「これだけ?」


「あ、あと、お花に水をあげないと‥‥‥‥」


「こっちやっとくから、シノは他のことやってて」


「あ、ありがとうございます‥‥‥‥」

いいのかな。手伝ってもらっちゃって‥‥‥‥。



戸惑いつつも、プランターにジョウロで水をあげていく。

藍色の水の音と、黒板消しの梅色が視界に映っては消える。







「ね、」


「はい」


「シノってさ」


「はい」


「いつも日直やってんの?」


「‥‥‥‥え?」



思わず顔を上げると、
いつのまにか黒板掃除を終えて、後ろの窓際の席に座っていた彼と目が合う。