「おはよう、シノ」



教室に入ると、()花色(はないろ)の声が私を出迎える。

桜庭(さくらば)君だ。





「お、おはよう、ございます‥‥‥‥」


私はそれだけ言って、そそくさと目の前を通りすぎる。 
名前で呼んでいいって言われたけど、やっぱり恥ずかしくて。

あんまり注目されたくない。
ただでさえ、「隅っこ族」なのに。

自分の席につくと、彼がこっちに来るのが見えた。





「____しののめさんっ♪」


急に視界に入ってきたオレンジ色。
ヘッドホンを着けているのに、目がチカチカする。

桜庭君を遮るようにして声を掛けてきたのは、隣の席の麻美(あさみ)さんだ。


いつもにこにこしている、元気な人。

鮮やかなオレンジ色が(まぶ)しい人。






「____はいっ♪」



なんですか、と言うより先に、大きなノートを渡して来る。日誌だ。

あ、そっか。今日だっけ、日直。



「ほんじゃ、よろしくねー✨」麻美さんはそれだけ言うと、他の子に呼ばれて廊下に出ていってしまった。





「どした?」

呆然(ぼうぜん)としている私の視界に、卯の花色がにじむ。



「‥‥‥なんか、」


「‥‥‥? うん」


「‥‥‥すごかったですね」


「‥‥‥‥‥‥うん?」  


「勢いが、なんか‥‥‥‥」



今まで席が離れていたからあまり関わりがなかったけど、
桜庭君が転校してきてからの席替えで、初めて麻美さんと隣同士になった。