「そっか。よかった」

彼が笑ったのを見て、私も少しだけうれしくなった。


正直に話していても、同じ言葉をかけてくれたんだろうことは、なんとなく想像できてしまったから。

桜庭君が人気な理由が、ちょっとだけ分かった気がする。





____ピンポン。

軽快な音と共に、桜色が視界に浮かぶ。


彼が「止まります」と書かれたボタンを押したことに、少ししてから気が付いた。

彼の降りるバス停まで、もうあと10分もない。





「____そういやさ、シノの名前、なんていうの?」ふと、そんなことを聞いてくる。


「え」なんでいきなり。


「名字しか、漢字読めなくて‥‥‥‥」申し訳なさそうに、彼が言う。



クラスの名簿を見て、私の名前を知ったらしい。

「あ____」言われて、下の名前を教えていなかったことを思い出す。ちょっと特殊な読み方をするから。

クラスの人にも「東雲さん」としか呼ばれないし、分からないよね。



「いろは、です。東雲(しののめ) 彩葉(いろは)


「かわいい名前だね」


「‥‥‥そんなこと」


名前褒められたことあんまりないから、ちょっと照れる。




「俺のことは、(そう)でいいよ」


「そう、君‥‥‥」


「____ん。じゃね、彩葉」


さ____じゃなかった。奏君はそう言って、私より一つ前のバス停で降りて行った。