「さっきの男の子、かっこよかったね」珍しくお母さんが上機嫌になる。
「うん」と生返事で返しておく。
目が合った気がするのも、きっと気のせいだ。
お母さんとそんな話をしていると、商品棚の影から彼が顔を覗かせた。
「‥‥‥‥‥シノ?」
ためらいがちに響いた卯の花色が、私の視界ににじんだ。
「ええっと、‥‥‥‥」
声を、かけられてしまった。
もう無視はできない。
「はい‥‥‥‥‥」
「彩葉、知り合いだったの?」とお母さんが山吹色の声で肩を叩いてくる。
「こんにちは」と彼が会釈をすると、照れながらも「どうも」と返している。
「東雲さんのクラスメイトの、桜庭です」
「彩葉がお世話になってます」
「お世話になってるのは、俺の方ですよ」と、笑って言う。
緊張してるのかな。
いつもより灰色がかった声。
「彩葉のこと、よろしくね」
そういうの恥ずかしいから、やめてほしい。
「モテるでしょ」なんて言ってる。
本当にやめてほしい。