____あのとき、ぼくの事をはげましてくれたのを覚えていますか。













え‥‥‥‥?


そんなこと、あったっけ。






少し記憶をまさぐってみる。














「俺さ、実は他の人に囲まれるの、好きじゃないんだ」




そうこぼした彼の表情が、ぼんやりと浮かんできた。初めて会話した日だ。


意外だった。


そういう風には見えなかったし、いつも誰かと一緒にいるような人だったから。




「一人でいたいって思うんだけど、いつの間にか輪に入り込んじゃって、抜けられなくなってる」


「みんな、星川君のこと好きだよ?」


「そうじゃなくて‥‥‥‥」


「?」


「話すとき、ネタになるからっていろいろしてるけど。興味ない番組見て、話題考えるの正直辛い」

何言ってんだろ、と困ったように笑った。




それは完全に愚痴だったけど。


ものすごく、悩んでるのが伝わってきた。




人気者でも悩んだりするんだな、と思いながら、何も言わずに聞く。


わたしにはそれしかできなかったし、それが精いっぱいだったから。


わたしの中の「王子様」と化した彼の言葉や表情にいちいち変に緊張してしまっていたのを憶えている。




「それに、すぐ転校するから。またここでも離れるんだなって思ったら、あんま仲良くしたくないし」




そのとき聞いた話だと、彼の家は転勤族らしい。


お父さんの転勤の度に転校していて、この学校に来たのも4年生の終り頃だった。


わたしは5年生になってから初めて同じクラスになったから、彼のことはあまりよく知らない。




「星川君にも、悩みなんてあるんだね」


「え、俺、そんな悩まなそうに見えんの?」


「うん。なんか意外」同じなんだな、と思わず笑ってしまって。





「友達は、たくさんいてもいいんじゃないかな。辛くなければ」って。


落ち込んでいた彼に、そう返したのを憶えているけど。