集合時間の11時が過ぎて、メインイベントが始まった。
当時埋めていたタイムカプセルを掘り起こすのだ。
公園の奥の方にある、大きな木の根元。今年は暖かかったせいか、もう桜の花が満開。
埋めた時に目印に付けた赤いリボンが、まだ太い枝のところにくっついている。
今は人気のない公園だけど、当時は学校の校庭だった。
わたしたちが卒業した年に廃校になって、校舎はもう取り壊されている。
遊具なんて滑り台と砂場くらいで、あとは申し訳程度にベンチがあるだけの寂しいところだ。
日曜の昼間に高校生が30人くらい集まっているなんて、はたから見たら異常事態だ。
お巡りさんが来たらどうすればいいのだろう。
男子が数人がかりで、木の根元を掘っていく。
どこから持ってきたのか、大きなスコップがいつの間にか穴掘り隊の手に握られている。
当時は園芸用のスコップでかなり苦戦していたのに、高校生にもなると腕力がすごい。
ものの数分でタイムカプセルを発掘してしまった。
「これで全部だな」
出てきたタイムカプセルは2つ。
誰かが大きなものを詰め込んだせいで全員分入らなくて、2つに分けたのだ。
穴掘り隊が地面を元に戻している間に、中身の話題で盛り上がる。
「海音は、何入れたのー?」
当時仲良くしていた茜ちゃん(違ったらごめん)が、わたしに聞いてくる。
「何だったっけ。覚えてないや」
「だよねぇー」
うそ、ついちゃった。
だって、言ったら詮索されそうなんだもん。
恥ずかしくて答えられる訳ないし、変なことを書いていないか不安になる。
他人に気軽に見せていいものでないことは、本人であるわたしが一番理解してる。
「ごめん、おまたせ」
いよいよタイムカプセルを開けようという時になって、男の子が乱入してきた。
公園の前にタクシーが止まっている。駅から乗って来たのだろうか。
ストレートの黒髪に、オシャレな制服。
それが東京の全寮制の学校のものだと気付くまで、少し時間が必要だった。
ただ、疑問なのは。
どうしてそんな人が、こんなところに来ているのかということ。
正直に言うと、私の知っている限りでこの学校に入学した人はいないはずだ。
今までタイムカプセルを開ける方に集中していた意識が、一気に彼の方に向く。
彼の正体に困惑している中、最初に声をかけたのは当時の担任だった。
「星川君‼︎来てくれたの⁉︎」
その声を聞いて、彼____星川君が先生の元に駆け寄り、「遅くなっちゃってすんません」と頭を下げる。
なんで、と思う。
彼は確かに、6年生のとき同じクラスだったけど。
タイムカプセルを埋める前に転校してしまったから、まさか会えるなんて思ってなかった。
それはみんなも同じみたいで、先生への挨拶が終わった彼をぐるっと取り囲んで質問攻めにしている。
遠まきに聞いた情報によれば、転校する前にタイムカプセルに入れるものを先生に渡していたらしい。
まるで最初からここに居たみたいに、一瞬で話の輪の中に入っていってしまった。
「話しかけてくれば?」蚊帳の外から見ているわたしに、さとちゃんが言う。
「いいよ、べつに」
「そう?」
ほんとはわたしだってそうしたいけど、話しかけられる雰囲気じゃないし。
何を話したらいいのやら。