「口開けろ」
「ん」

 食い終わったのを見はからって、次を充填する。
 口に入れれば、千早は都度、幸せそうな顔をした。

「開けろ」
「ちょ、ちょっと待って、どうしたの? 急に。もういらないよ、龍生も食べなよ」

 慌てたように言われてハッと我に返った。

 ――しまった、なんかよく分からない引力がある。

「もういいのか」

 誤魔化すように、俺はぼそりとつぶやきながらコーヒーをすすった。

 いつも見た目で動物にさえ避けられてっから、まあ、悪い気はしないな。

 千早が食べ終わるまで、なんでこの高校生たちは四人席で隣同士で座っているのだろう、という視線を店員から向けられながら、俺は千早を見ていた。

「えっと……」
「コードで」

 レジで千早が金を出そうとしてもたついていたから、スマホで素早く払った。

「あの、お金」
「いい」

 まあ、このくらいはいいだろうと思う。
 今度があれば、なにか礼をしてもらうかもしれねぇが、今回限りかもしれないしな。

「ありがと、龍生」

 千早はもう「抱っこ」とは言わず、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
 見えないし、杖もないから仕方ない。

「で、家どこだよ?」

 住所を教えてもらおうと思って言ったんだが、千早は

「いまどこ?」

 と困ったような顔で言った。

「はぁ……」

 この小動物、やっぱ意味分かんねぇ。