「仕方ねぇな」

 そんなことを言いながら、俺は白杖ってやつを一応回収して、正面から抱きかかえるように千早の身体を持ち上げた。
 千早は同年代の男より断然小柄で、見た目通り小枝か、ってくらい軽かった。

「違ぅ。お姫様抱っこ」

 抱き上げたまま、顔を見ると、むぅっと頬が膨らむ。

「はぁ……」

 俺は溜息を吐きながら、体勢を変えた。

「家、どこだ? 近くか?」
「落ち着くまでケーキ食べたい……」

 千早を抱いたまま、視線を辺りに散らしていると、小さな声が聞こえた。

「はあ?」
「ケーキ食べたぃ……」

 あまりに意味が分からなくて、俺が呆れた声をもらすと、千早は涙声で小さくつぶやいた。

「……分かったよ」

 いまにも泣きそうな顔で言われて、断れず、俺は千早を抱いたまま近くのカフェに向かった。だが、さすがにそのままでは入れない。扉の前で下ろすと、千早は普通に歩き出した。

 ――なんなんだ、まったく。

 このあとも意味が分からなかった。