クラスリーダーの冷ややかな声に、嶋田の名を出した徳永が驚いたようだった。

「ちょ、平池くん、そんな決め方でええの?」
「とりあえず決めとくわ」

 主役2人が決まれば、後はどうにでもなる。遥大は議事を進行することにした。
 ちらっと徳永を見ると、後ろの席の女子から背中をつつかれて、2人して笑いを堪えるようにしてこそこそ話し合っていた。遥大はそれを見て、徳永の指名がガチンコだったと察した。
 しょうもな。勝手にやっとけ。
 配役が決まると、遥大は大道具係に収まっておいた。これで文化祭は楽勝だ。体育祭もこの調子で、やりたい奴にやらせておくのだ。
 遥大の希望していた通りに運び、その日のホームルームは終了した。



 3年間メンバーが変わらないこのクラスの中に、遙大は特に親しい友人を持たない。それで不便は無かったし、卒業するまでこのままでいいと考えていた。
 ホームルームの時間にいなかった嶋田奏汰(かなた)とは、この2年半、ほとんど話したことが無い。もしかするとクラス全員の中で、言葉を交わした回数が少ないトップ3に入るかもしれない。噂によると彼は音楽一家の人間で、彼自身も何か音楽をやっているらしく、平日に稀に早退したり、土曜日の特講に来なかったりするのは、舞台のリハーサルや本番があるからだという。
 遙大にしてみれば、そんなことで休みや早退の届けが学校に認められるのが、ちょっと不思議だ。この高校は生徒が、学業の成績に支障のない範囲で課外活動をすることを大いに奨励している。嶋田奏汰もおそらく、そういう生徒の一人なのだろうが、3-Aの多くの者は彼が何をしているのか知らない(と思う)し、学校行事に関する大切な話し合いの時に不在なのは、彼の成績に問題は無くても、クラス運営に支障が出ていると言えないだろうか。
 3年生になりクラスリーダーを任されることになった時、遙大は嶋田について、担任の長谷部に訊こうと思ったのだが、忙しさにかまけて失念していた。というより、そこまで嶋田という人間に興味を持てなかった。成績が落ちたと言われない程度に授業を適当に受けて、休みたいときに休む。自由と身勝手を取り違えているようにしか、遙大には思えなかった。