「とうちゃーく」
屋上のドアが開かれた。
今日はやけに風が強い。
そのせいで、門脇の髪もなびいている。
「ねぇ、もう気付いてるんでしょ……?」
門脇は、両手を擦り合わせ、モジモジした様子で俺に尋ねた。
「まぁ、何となく…?」
「そっか。じゃあ、改めて自己紹介するね。僕の名前は、門脇遥。君と十一年前に仲がよかったあの『はるかちゃん』だよ」
ずっと女の子だと思っていたはるかちゃんは俺と同じ男で……
俺の初恋も男……⁉︎
ダメだ、理解が追いつかない‼︎
「ひーくん。久しぶり」
心臓が跳ね上がった。
初恋の感覚が蘇り、首から指先までを汗が伝った。
多分、俺、今、すげぇみっともない顔をしてる。
「その…俺の事……覚えてたのか?」
門脇(?)から目線を逸らしつつ、俺はそう言った。
「もちろん!忘れてるわけないじゃん。ひーくんは僕の初恋の人なんだから」
!!!!
それって……
あの頃、両想いだったってことぉ⁉︎
「そう……か」
反応に困った。
「約束もしてたじゃん。大人になったら僕のこと、お嫁さんにしてくれるって」
「待て」
「へ?」
「一回待ってくれ。そもそも何で、あの頃女の子のフリをしてたんだ?そっちを先に聞かせてくれ」
「ごめん、そうだよね。僕って、自分で言うのもアレだけどさ、女の子っぽい顔してるじゃん?だから、ひーくんのお母さんにも勘違いされちゃってさ。それで、もういっそのことひなたくんの前では女の子として振る舞えって言われて」
「なるほどな」
「それより前から定期的に女装みたいなことはさせられてたから。そういう格好するのに別に抵抗はなかったんだ。いつか男だって、バラそうとは思ってたんだけどね。タイミング逃しちゃって……」
門脇(?)は、あははと苦笑いした。
「そうか、事情はよく分かった。で、俺はその……これから何て呼べばいいんだ?」
「んー?何でもいいよ」
「じゃあ、門脇って呼ぶ」
「えー‼︎」
「何だよ?文句あんのか?
「いや…何でもいいとは言ったけど、出来れば昔みたいにはるかちゃんって呼んでほしいなーって……」
門脇(仮)は指先に栗色の髪を巻きつけながら不機嫌そうに言った。
「気持ちは分からなくもないけど。俺みたいな奴がはるかちゃんって呼んでたらヤバいだろ」
「ヤバいってどーゆーこと?」
「クラスメイトにそれを聞かれたら、俺たちの関係を説明するのが面倒だろ。今の俺と、は……はるかちゃんじゃ、住む世界が違うだろうし」
「言ったー‼︎はるかちゃんーって言ったー‼︎」
「…うるせぇ」
「今、僕めっちゃ嬉しかったよ?だから、呼んでよ。おーねーがーい!」
悲しそうに目を潤ませる門脇(仮)。
断りづれぇ〜〜‼︎
「もう分かったよ。二人きりの時は…遥って呼ぶから」
「え…呼び捨て?」
「男にちゃん付けってのも、変だろ?」
「別に変じゃないと思うけどなぁ…ひーくんがそう言うなら仕方ないかぁ。」
「あとさ」
「へ?」
「俺のこと、そのあだ名で呼ぶのやめろよ」
「えっ!何で?」
「遥に「ひーくん」って呼ばれると、何かおかしくなる……」
俺にしては珍しく語尾が弱々しくなった。
「それってさ、女の子だと思ってた幼馴染が本当の性別を明かしてきたけど、昔と変わらない呼び方して来るから、複雑〜って感じ?」
何で分かるんだ。天才かよ。
幼馴染だからか?
「想像に…任せる…」
「何かごめんね?まあ、僕はひーくんって呼び続けるけどね♪」
こんのっ、小悪魔め……‼︎
「分かった、この呼び方は
2人の時だけにするから。怒んないで!」
別に怒ってないんだけどな…
「それと教室で話しかけてくるのも禁止な。」
「それって、赤の他人のフリしろってこと?」
「まぁ、そうなるのかな。だって!そもそも、俺なんかと仲良くしたいなんてもう思ってないだろ…?」
「なんで、そんな悲しいこと言うの!ひーくんに興味失くしてたら、そもそもこーやって屋上に呼んだりしてないよ‼︎」
「そうかもしれないけどさ……」
だって、十年くらいのブランクがあったんだ。
俺のことなんか、
忘れてるんじゃないかって思ってたぐらいだし。