「門脇、入っていいぞ」
門脇、というのが転校生の名なのだろう。
「はぁーい」
そんな軽やかな返事が教室の外から聞こえてきた。
ーガラガラッ。
教室に入ってきたのは、男子生徒だった。
身長は一六〇センチ前後、童顔で小動物っぽさがあり、ふんわりとした雰囲気を纏っている。
黒いカーディガンを着用していて、袖口から指先だけを出す、いわゆる萌え袖をしていた。あざとい。
もっと端的に彼の容姿を表現するなら、中性的なイケメン……といったところだろうか。
とにかく、すごくモテそうな奴というのが俺がこの男に抱いた印象だった。
「ここに、名前、書けばいいんですか?」
「あぁ。」
門脇は、黒板の位置が自分の身長に対して高すぎたのか、つま先立ちでバランスを崩しそうになりながらも名前を書いていく。
そんな様子を見ていた何人かの女子が「可愛い〜‼︎』と歓喜の声を上げた。
コツコツというチョークの音が止まった。
どうやら、書き終えたらしい。
『門脇遥』
黒板には、そう書かれていた。
遥……ね。
まぁ、偶然か。
門脇が俺に微笑んだように見えたのも、偶然。
そんな訳無いよな。
そもそもはるかちゃんは女の子だし。
俺、拗らせすぎて、ついに幻覚が見えるようになったのかな。
そうだ、きっとそうなんだろう。