それはある雨の日のことだった。
 元々は公園で遊ぶ予定だったが、何しろ天気が悪かった。
 だから、その日は彼女の提案により、俺の家の中でおしゃべりすることになった。
 最初は幼稚園の話とか、日曜日のヒーロー番組の話とかで盛り上がってたんだけど……
 いきなり、はるかちゃんが俺にこんなことを言って来た。
 
「ねぇ、ひーくん!ひーくんはさ、わたしのことすき?」
「うん!だいすきだよ!」
 
 俺は迷わず、そう答えた。
 ただ、この時の俺は、はるかちゃんの言う「好き」を恋愛的な意味では無くて友達としての「好き」だと捉え返事をした。
 
「よかった!わたしもだいすき!」
「だって、はるかちゃんといっしょにいると、すごくたのしいもん」
「わたしたち、ずっといっしょがいいな……」
「うん、おとなになってもずぅーっといっしょがいい‼︎」
「じゃあさ、やくそくしよ?」
 はるかちゃんは自分の小指を俺の前に差し出した。
 
「やくそく?」
「うんっ!おとなになったら、ぜったいけっこんしようね!」
 
 きっと、当時の俺たちは「結婚」という言葉をちゃんと理解していた訳ではない。
 よく分からないけど、とにかく何かハッピーなことだと認識していたんだと思う。
 
「うん!ぼく、はるかちゃんとぜったいけっこんする!」
 俺は小指を絡めた。
「ゆびきりげんまん、
うそついたら、はりせんぼんのーますっ!
ゆびきった!」
 約束の合言葉を言い終えた時、はるかちゃんは何故か目に涙を浮かべていた。
 不思議に思ったけど、俺は何も聞かなかった。
 
 その一カ月後だった。
 はるかちゃんは突如、俺の前から姿を消した。
 母さんに聞いたところ、遠い町に引っ越したのだそうだ。
 その時、俺はようやく、はるかちゃんの涙の意味を理解した。

俺とはるかちゃんが過ごした時間は、たったの二年だった。
 ずっと一緒にいるって約束したのに、何も言わずにいなくなるなんて。
 俺は裏切られたような気持ちになった。
 もう一生会えないとしたら、この先生きていく意味なんてもう何も無い。
大袈裟だと笑われるかもしれないが、はるかちゃんの存在は俺の中でそのくらい大きくなっていたのだ。 

時が経ち、悲しみは薄れていったけど、今でもふと思い出すと泣きそうになる。
 まぁ、普通に考えて、十七にもなって、初恋をずるずると引きずってるなんてめちゃくちゃキモいだろうから、他人に言ったことは無いけど。