そうして、遥は不満そうにしながらも、
俺から離れた。

そうだな、何か話題…話題……

「あ!テストもうすぐだよな」
「確かに!そうだね!
この学校のテストって難しい?」
「うーん、俺的には普通…かな?」
「苦手科目とかある?」
「え、俺?」
「うん」

俺はしばらく考え込んでから、

「…英語かな」
「ひーくん、そうなの⁉︎英語なら僕教えられるよ!」

遥は自信ありげに胸に手を当ててそう言った。

「得意なのか?」
「うん!ずっとアメリカにいたからね」
「え…遥が引っ越した先って、
アメリカだったのか⁉︎⁉︎」

初耳なんですけど。

「今更⁉︎もしかして、知らなかったの⁉︎」

何か知ってて当たり前でしょという感じの言い方だ。

「おう」

母さんは知ってたんだろうか。
何で、あの人はいつも俺に肝心なことを教えてくれないんだよ‼︎
まあ、怒っても仕方ないか。
遥の話の続きを聞こう。

「お父さんの仕事の関係でね」   
「そうか」
「急に決まったことだったから、ひーくんたちにもちゃんと連絡出来なくて…」

言葉を紡いでいく度に、遥の顔はうつむきがちになっていった。

「…ごめん。あの時は」
「謝るなよ。確かに、何とも思わなかったって言ったら嘘になるけど……
ほら、顔上げろ」
「ひーくんは優しいね…
そーゆーとこ、好きだよ」
「バッ‼︎好きとかっ、言うな‼︎」

遥はただ思ったことを口にしただけなのだろうが、俺には刺激があまりにも強かった。

「そーやって、すぐ照れちゃうとこも可愛いね。好きだよ」

お い う ち ……⁉︎
もうやめて!とっくに陽汰クンのライフはゼロよ‼︎

「はぁはぁ…遥…はぁ…一旦、黙ろうか‼︎」

何で俺は体育の授業の前に息切れしてんだよ。


「昨日の試合見た?」
「サッカー?」
「そう」
「見た見た!日本弱すぎだろw」
「なぁ!もう監督変えた方が良いんじゃねぇの」
「いやそれな」

そんな男どもの騒ぎ声が徐々にこちらに近づいているのが分かった。

「遥。結構今からここに人来そうだし、話すのはまた後でにしようぜ。ほら、テストのこと」
「うん…そーだね。わかった」

そうして、俺たちは黙って各々で着替えを始めた。



体育が終わった後、俺と遥は誰よりも早く更衣室に戻ったので、再び会話の時間を設けることが出来た。(ちなみに他の男どもはまだ体育館に残っているのか知らないが、中々更衣室に戻って来なかった。)

その間に俺と遥で決めたことは2つ。

まず1つ目。
次の金曜日、勉強会を開くということ。
場所は俺の家。
遥が英語の試験範囲を一から教えてくれるそうだ。

2つ目。
俺と遥が喋って良いのは、体育の授業前後の時間のみ。つまり、更衣室以外の場所では、お互いに関わらないということだ。

2つ目は俺と遥、どちらにとっても、良い取り決めだったと思う。
遥が俺に好意を抱いている以上、
このまま他人のふりをし続けることは、
彼にとって耐え難い苦痛だろう。

たとえ、それが校内に限った話であっても、だ。