クラスでの写真撮影が終わると、
俺は教室へと一目散に駆け出した。
 あー、ちょっとフラフラする。
 昔から暑さに弱いんだよな、俺……
つーか、何でまだ六月の上旬なのに、
こんな暑いんだよ……

 ーガラッ。
 
「はー、天国……」
 
 思わず、口からそんな言葉が漏れ出た。
 教室内は冷房が良く効いていて心地良い。
 俺は自分の席に腰掛けると、
手に持っていたハンディファンを起動した。

 窓の外を見ると、
まだ大半の生徒がグラウンドに残っている。
あの暑さでよく平気だな。
もはや、尊敬出来るレベルだ。
 ボトルのキャップを開け、スポーツドリンクを口に含めば、すぐに身体の奥底にまで冷たさが染み渡った。

 適当にスマホを触りつつ、涼んでいると教室に誰かが入ってくる気配がした。

振り返ると、女子がいた。
 この人は確か……遥とよくつるんでるクラスメイトの……小泉さんだったかな。


気まずい。

非常に気まずい。
 
「ねぇ、吉川君」
 
 前に向き直ろうとした瞬間、声をかけられた。
 
「はい⁉︎」
 
 間抜けな声が出てしまった。
 
「お、俺に何か用ですか……?」
 
 多分、小泉さんと喋るのは今日が初めてだ。
 まさか、こんなキラキラ系女子から話しかけられるとは思っても見なかったので、俺は若干身構えた。

「やだなぁ〜タメなのに敬語使うなんて」

そう言いながら、
綺麗に編み込まれた髪をかきあげる小泉さん。

その瞬間、
フローラルな香りが広がって


「はるちゃんのことなんだけど」
 
 はるちゃん?あぁ、遥のことか。
 元・幼馴染の俺ですら、
遥をあだ名で呼んだことなんてないのにぃ〜‼︎
 いや、落ち着け俺。
 
「さっきのやつ、何?」
 
 借り物競走のことか。
 
「えーと……」
 
 何て説明すればいいんだろう。
 俺が言葉に詰まってるのも、お構いなしに彼女は続けた。
 
「今まで、あなたとはるちゃんが喋ってるのなんて見たことなかったから。ちょっとビックリしちゃって」
 
「あー……」
 
 ヤバい、何て返せばいいのか分かんねぇ。
 
「お題は好きな人とか定番だけど……そんなとこ?」
「まぁ、うん」
 
 良い返し方が分からず、素直に答えてしまった。まぁ、下手な嘘ついて後から困るよりはマシだろ。

「色々突っ込みどころがあるんだけど……
とりあえず、それはいいや。
私、はるちゃんのこと好きなんだよね」