「行けー、門脇ー‼︎」
「遥くーん、頑張ってー!」
 
 そんな声援が飛び交う中、遥はグラウンドを疾走している。
 運動神経の良さは健在らしい。
 
「ひーなーた」
 
 そう言いながら、誰かが
俺の肩に手をポンと置いた。

まぁ、誰かって言ってもぼっちな俺に話しかけてくるのなんてあいつぐらいだろ。

振り向くと、
予想通りニヤニヤ顔の近藤と目が合った。

「何だよ」
「いや……お前、ずっと門脇の方見てるから気になって。もしかして知り合いなのか?」
 
 うっ……
「ノーコメント」
 
「おい。教えろって。オレ、誰にも言わないから」
「俺、お前のこと、信用してないからぜっったいに言わねぇ」
「ちぇっ。でも、多分何かあるんだろ?あいつとさ。オレ、前から気になってたんだよ」
「そうなのか?」
「おう。でも、聞かないようにしてた。何かワケアリっぽいからな」
「近藤……お前って、意外と良い奴だな」
「はっ、やーーっと気付いたか。オレの素晴らしさに。もっと感謝してくれてもいいんだぜ〜?」
「殴っていいか?」
「やめろって!お前だとマジでやりそうで怖いんだよ‼︎」
 
 俺ってそんなイメージ持たれてたのか。ちょっと意外。
 
「とにかく、お前が話したくないならいいよ。オレもこれ以上詮索したりはしない」
「よろしい」
 
 ふぅ、何とかやり過ごせたぜ。
 危ない危ない。
 今日は体育祭当日。
 今は二年生の全員リレーが行われている。
 俺たち二年一組は遥の活躍もあり、暫定一位だ。遥は選抜リレーの方にも出場するらしい。
 ちなみに俺はと言うと、ただ運動音痴を披露し、足を引っ張っただけでした。……はい。
 何はともあれ、俺の出場する競技はこれで最後だから、そこからはずっと見るだけだ。
 
「なあ、見ろよ陽汰。オレらのクラス、一番にゴールしそうだぜ」
「マジ?」
 
 グラウンドに目を向ければ、いつの間にかアンカーが走り始めていた。
 
「行ける、行ける、一組ーーっ‼︎」
「抜かせ、抜かせ‼︎」
「ファイトー‼︎」
 
 生徒たちの盛り上がりも最高潮に達している。
 毎度思うが、こんなに応援されたら、俺だったら逆にプレッシャーになる気しかしない。あいつら、すげぇな。
 などと感心していると、
いよいよアンカーたちがカーブを曲がり、ゴールに接近してきた。

先頭を走っているのは

……赤いゼッケンを着た一組の生徒だ。
 
「いっけぇーー‼︎」
 
 一応、俺も心の中で応援中。
 
「ゴール!」
 
 ゴールテープを切ったのは、やはり一組だった。
 クラスメイトたちは抱擁を交わしたりして、喜びを分かち合っている。
 得点板を見ると、どうやら今の学年リレーで俺たちのクラスが一気に得点を獲得したらしい。
優勝の可能性が高くなってきたってことか。

 えーと……次の競技は……
 俺はジャージのポケットからプログラムを取り出し、それに目を通した。
 借り物競走か。
 遥が出るとか言ってたような…
 
「あっちぃ……」
 
 俺はシャツで汗を拭いながら、
自分の席へと戻った。