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散々な日だった。
久しぶりに塾の模試でへまをしてしまい、前回よりも総合順位が十位以上も落ちてしまったのだ。
その結果を知ったお母さんは案の定私を一日机に座らせ続けた。解放された時間は二十三時くらい。
今年になってからお母さんの束縛がかなり激しい。
自分の中ではいい方の成績だと思っても、お母さんには満足してもらえる成績ではなく、数時間拘束されるなんて日常茶飯事だ。
そのせいで今日は起きた時から何となく頭が痛い。
もちろん頭痛だけで学校を休めるわけもなく、重い体を奮い立たせて電車に乗っている。
しかし休めないのにはもう一つ理由があった。
今日はよりにもよって山宮くんと放課後に図書館で会う約束をしている日なのだ。
初めて図書館で山宮くんと会った日から今日でちょうど一週間。
長いような、短いような、そんな風に感じた七日間は初めてだった。
「奏葉ー!」
駅から学校までの道を歩いていると、朝にしては大きすぎるくらいの声で名前を呼ばれた。
「お、おはよう」
「おはよ!登校の時間同じなの初めてじゃない?奏葉いっつも朝早く学校来てるのに」
「ちょっと寝坊しちゃって」
登校中の私に話しかけてくれたのは、なぜかこの間から関わることになった神谷さん。
体育祭の種目決めの時に初めて話してから一週間、教室でも何でもない会話を突然振られたりする。
神谷さんの友達はクラスの女の子の中でも派手なグループに所属している子がほとんどで、正直話しかけられても反応に困ってしまっているのが本音だ。
神谷さんがいきなり私なんかに話を振るものだから、周りの女の子達も毎回困っているような気もする。
でも神谷さんのような人達はこうして簡単に友達を作ったりするのだろうか、私には分からない。
「月曜の一時間目っていうだけでだるいのに科目英語だよ、ほんとに無理!」
「苦手、なの?」
「英語得意な人なんているの?母国語じゃないのに?」
「母国語って…」
でも神谷さんは話してみると思っていたより普通の女の子だった。
普通、というより私が勝手にもっと価値観の合わない人だと思い込んでいたように感じる。
きっと上手く会話もできないと思い込んでいたけれど、神谷さんと二人きりの時なら周りの女の子の視線も気にならず気楽に話すことができる。
「愛梨ー!おはよ!あ、白石さんも!」
そんなことを思っている間にも神谷さんの周りにはたくさんの人が集まってくる。
その光景を見て、山宮くんみたいだなと思った。
二人はよく似ている。誰とでも上手く話せるところや、いつも明るくて、人がたくさん集まっている様子も。
その後更に人が増えてきて明らかに自分だけ場違いな気がしてきたので、神谷さんに上手く行って抜け出そうと決めた。