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今日はまだ蕾が開いていなかったが、二週間後にはこの場所も一面桜で埋め尽くされるのだろう。
その頃には私達もきっと新しい未来を見ている。
今日は高校生活最後の日で、学校で卒業式が行われた。
みんなと学校にいられるのも今日で最後かと思うと、朝からしみじみとした気持ちになる。
三年間来た制服に腕を通して、私は今日も家を出て学校に向かった。
お母さんとは特に会話もしなかった。卒業式に来るのかも分からない。
きっと世間体を気にするお母さんのことだから、一応出席はするのだろう。
今日が終わったら、二日後には家を出て一人での暮らしが始まる。
中々帰ってこないお父さんも私の一人暮らしには賛成のようで、すんなりと了承を得た。
受験が終わってから一人暮らしの準備を始め、最近は慣れないことばかりだ。
自分でお金をやりくりするためにも、バイトを始めた。
慌ただしい毎日を過ごしていたこの一か月。
そして今、一か月前に受けた第一志望の結果が出た。
卒業式が終わり教室でみんなと話していた時のことだった。
結果は一人で廊下で確認し、早くその結果をみんなに伝えたくて、私は急ぎ足で教室に戻る。
廊下を思い切り走ったせいで、せっかく愛梨ちゃん達が整えてくれた整えた髪がボサボサになってしまった。
けれど今はそんなことよりも早く、みんなにこの気持ちを共有したい。その一心だった。
教室を目の前にしたら、結果を知っている私の方が緊張してきた。
一年間通ったクラスのドアを、思い切り開ける。
「わっ!」
「びっくりした…」
「奏葉、どうだった?」
教室はもうかなり人がいなくなっており、私の席の近くにはみんなが不安そうな顔で集まっていた。
そんなみんなを笑顔で見つめて、私はスマホを差し出す。
それを見た途端、みんなの顔が一気に不安から安心に変わった。
「うわー!よかった!おめでとう!」
「すごいよ奏葉…!」
「ありがとう、みんな」
愛梨ちゃんと柏木くんはは安心のあまり泣いてしまったし、蘭ちゃんと凪咲ちゃんからは褒め称えられるしで、くすぐったい気持ちでいっぱいだ。
みんなの素直な反応が何より嬉しい。
この結果を知った時に一番に知らせたいと思ったのは、やはりこの五人だった。