「おめでとう、白石さん」
「はぁ…よかった…」
「入試もお疲れ様。みんなでピザ買ってきたから、食べよう?」
そう言って山宮くんはピザの箱を机の上に置いた。
「奏葉が合格したら、いやしなくても?とにかくお疲れ様会しようってみんなで話してたの!」
「みんな、ありがとう…」
この数週間、一番入試が終わるのが遅かった私を色々な方面からみんなが気遣ってくれていたのを思い出して、優しさに涙腺が緩む。
「奏葉合格おめでとう!私達も受験生お疲れ様~!」
蘭ちゃんが持参してくれたらしい炭酸ジュースを開け、私達しかいない教室で乾杯をした。
口の中でパチパチと跳ねる炭酸がさっぱりしていて美味しい。
「いや~なんかほんとよかったよね!みんなこんな綺麗に決まって」
「ほんとほんと。後は奏葉の第一志望だけか。いつだっけ、結果」
「卒業式の日に出るんだよね。どうだろうな…。あんまり自信ないけど」
「まぁどのみち奏葉はよく頑張った!うちらも!」
私は山宮くんの切ってくれたピザを頬張りながら頷く。
春から私達は、全く違う道に進むことになった。
愛梨ちゃんと柏木くんはそれぞれ別の都内の大学へ。蘭ちゃんは看護、凪咲ちゃんは美容の専門学校へ進学が決まっている。
柏木くんに関しては、大学でも大好きなサッカーを続けることになったそうでその様子は生き生きとしていた。
みんなそれぞれ別々の道を進むことにまだ実感が湧かない。
こんなに一緒にいるのに、二か月後には少し遠い距離になってしまうなんて。
「卒業式までまだ少しあるんだから遊びまくろうね。今が一番遊べるんだし!」
「どこ行こうか。みんなでテーマパークとかいいよね。何気に行ったことないし」
「うわ行きたい~」
そう言ってたのしそうに話すみんなを見つめる。
この光景が好きだ。まさに去年の四月、私が憧れていた光景だった。
卒業式でもないのにこんなに寂しく思っているのはきっと私だけだから。
この気持ちは自分の中だけに留めておくことにした。
買ってきてくれたピザもみんなで完食し片付けている最中、山宮くんに話しかけられた。
「寂しい?」
「えっ…なんで分かるの」
「何となく、寂しそうな顔してたから」
山宮くんに指摘されて顔に出ていただろうかと焦ると「みんなは気づいてないと思うけど」と付け足され、安心した。
けれど山宮くんの私の気持ちを察知する能力の高さには一歩引いてしまう。
なぜそんなに私の感情が読み取れるのか分からない。
「みんなも寂しいと思うよ。特に白石さんとはまだ話すようになってから一年も経ってないからね」
「私が?むしろ付き合いの長い人同士の方が寂しいんじゃ…」
「それももちろんあるけど、俺はもう少し早く白石さんと出会ってればなって何回も思ったよ」
山宮くんからまさかそんな言葉が聞けるとは思わず、片付けの手が止まる。
綺麗な瞳と目が合って、また視線を奪われる。この瞳には何度見つめられても慣れないだろう。
そして山宮くんはその言葉に続けるように言った。
「今日、この後空いてる?」
「空いてるけど…何かあった?」
「…返事、したい」
人間は、あまりにも待ち望んでいた言葉を耳にすると固まってしまうらしいというのは本当だった。
山宮くんのその言葉でついに、という気持ちとまだ、の気持ちが揺れる。
心像がまた早く動き出して、全身に緊張が走る。
この緊張しがちな性格を辞めたいと何度思ったことか。
とても小さなことから大きなことまで、すぐに緊張して上手く話せなくなってしまう。
そうなってしまったら、山宮くんは笑ってくれるだろうか。
馬鹿だなぁってあの優しい笑顔で笑ってほしい。
「この後抜け出しちゃおっか」
「えっ?」
「大丈夫。みんなには話つけてあるから」
そう言っていきなり手を引かれ、二人で教室を飛び出した。
それが何度も山宮くんと通った図書館までの道だと気がつくのに、そう時間はいらなかった。
教室のある三階から誰もいない階段を駆け下りる。
もつれそうな足も、山宮くんと二人なら走ることができた。