「だって俺から見たら白石さんは、いい意味で優等生じゃないもん」
「えっ?」
帰ってきた言葉は全く予想外の言葉だった。
「確かに白石さんは成績をキープするためにいつもたくさん頑張ってるし、他人からの評価もすごく気にしていると思う。少し前の俺だったら確かに優等生な白石さんっていうイメージだったかもしれない。でも今の白石さんのイメージって俺にとっては優等生とはちょっと違うんだよね。神谷達と無邪気に話してる姿とか、意外といたずら好きなところとか、すぐに泣くところとかを見てると優等生って言葉だけで白石さんのことを表すのは違う気がして」
「そう…なの?」
「うん。きっと神谷達ももう優等生の白石さんじゃなくて普通に友達の白石さんとして見てると思う。だからみんあがみんな優等生の白石さんを求めているわけじゃないんだよ」
「そ…っか。そうだったんだ」
私は今まで作り上げてきた優等生の自分というレッテルを崩れることをとても恐れていた。
けれど近くで関わる人にとっては私のそんな安っぽいレッテルなんかとっくに剝がれていて、それを失うことを恐れたりしなくたって良かったんだ。
少なくとも学校で親しくしてくれているみんなには、そんなレッテルもう必要ないのかもしれない。
そのことが分かった途端、急に楽になった。
けれどまだ一つ、振り切れないところがある。
「でもやっぱり学生のうちは親から離れられないし、どれだけ素の自分でもいいやって思えるようになったとしてもお母さんには認めてもらえないかもしれないのが、怖い…」
「そうだね。人によっては白石さんを自分の理想に押し付けてくるかもしれない。その人から解放されたくても俺だけの力じゃどうにもできないかもしれない。けどその時は俺達のこと思い出して。俺や神谷達は、白石さんのことをそのまま受け止める。これだけ偉そうに言っておいて傍にいることしかできないのが本当に悔しくて情けないだけどね。ごめん…」
山宮くんはそう言って悔しそうに俯いた。
そんなことない。私にとって傍に味方がいることが何より嬉しいか。
ずっと一人で抱え込んできた過去の自分とは違う。
まだ本当の自分のことは受け入れきれないし、親に見捨てられるのも怖い。
けれどまた不安になった時には、山宮くんが、みんながいる。
本当の私を一番に受け止めてくれるみんなの存在がとても温かく感じた。
「私が優等生を完全に卒業できるのはきっとまだ先だろうな…」
「ゆっくりいいし、何ならそのままでもいいんだよ。でもその時は、一緒にいたい」
少し照れた顔の彼と目が合う。そして二人で笑った。
その瞬間、絶望の中に微かに光が見えた気がした。