「奏葉、大丈夫ー?なんか最近元気ないよね」

「うん、ごめん…」

「体調悪いなら一緒に保健室行こうか?」

「ううん、大丈夫。あ…ごめん。今日も勉強しなきゃだから私一人で食べるね」

「いいけど…気を付けてね」

「ありがとう」

四限の授業が終わり、昼休みの時間になった。
さっきの私の様子を見て心配してくれたのか、授業が終わった途端三人が揃って私の席に集まってくれた。
けれど前までは楽しいと思えていた愛梨ちゃん達との会話も身体的に辛くなってしまって、最近は一人でご飯を食べることも多い。
みんなになぜか気を付けてねと言われ、私は参考書とおにぎりを持って教室を出た。
階段を下り、外に出て右に曲がると、人通りの少ないベンチがある。
最近の私はそこの校舎裏のベンチで一人、過ごしている。
今日は朝お母さんと言い合いになってしまい、お弁当を受け取らずに出てきてしまったので、登校する途中でおにぎりを買った。
袋に包まれた何味かも分からないようなおにぎりを取り出し、頬張る。
全く味がしない。美味しいとも不味いとも思わない。
とにかく早く口に詰め込むということだけに注力して、すぐにまた参考書を開いた。
繰り返し解いた問題集。ボールペンで書き込んだ文字だらけの参考書。
朝のお母さんの言葉も先生達の期待の眼差しも。
その全てが私を急かしているような気がして、思わず参考書を閉じた。
息が荒い。目のクマを隠すためにしているマスクが苦しくて、でもどうしようもできない。
みんなと出会って全く違う世界を知って、私も少しは同じになれたと思っていた。
けれどそうじゃない。
私はみんなと同じ色を纏っただけの全く違う人間なんだ。
だからこうして定期的に優等生でいることが苦しくなるし、こんな自分を捨てたくなってしまう。
みんなのように生きられない自分が嫌になってしまう。
けれど辞められない。優等生でなくなった私には、何も残らない。
苦しい。苦しい。苦しい。
周りの音は何も聞こえなくて、聞こえるのは自分のうるさい心臓の音と荒い呼吸音。
もう駄目かもしれないと思った時、私の背中に暖かい手のひらが触れた。
私は何がなんだか分からないまま、その人のさするタイミングに合わせて呼吸をした。