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「文化祭中図書館になんてみんな来ないよね、すごい静か」
「そうだね」
何となく、落ち着かない雰囲気。
いつもと同じ一番慣れた図書館に来たのに、気持ちが落ち着かなくてそわそわする。
さっきの山宮くんのあの言葉は、どういう意味なんだろうか。
まだ二人でいたいと山宮くんも思ってくれていたのかは分からない。
自分に都合よく捉えてしまっているのではないかと怖くなる。
「白石さん」
「は、はい」
いつも一緒に本を読んでいる角のソファーまで歩いてきて腰を下ろすと、山宮くんから改まったように名前を呼ばれる。
「少し何も言わないで聞いてほしいんだけどね」
「…うん」
「あの日、白石さんから言われたこと真剣に考えてみたんだ」
私は何も言わずに、頷く。
その次に続く言葉を聞くのが怖くて耳を塞ぎたくなった。
「少し、時間をくれないかな」
「…え?」
けれど山宮くんの口から出たのは私の予想していたどの言葉でもなかった。
「白石さんは返事はいらないって言ってたけど、やっぱり俺はちゃんと考えたいと思った。白石さんが他の人とは違う存在だってことは分かってるんだけど、その気持ちがまだはっきりしなくて。だからその気持ちがはっきりした時には伝えても、いいかな」
それは今山宮くんからもらう言葉の中で、きっと一番嬉しいものだった。
山宮くんに自分がどう思われているのか聞いたことは初めてで少し新鮮で照れくさい。
「白石さん…?」
張本人の山宮くんは不安げな表情で私のことを見つめている。
「あっごめん…嬉しくて。まさかそんなに山宮くんが考えてくれてるとは思わなかった」
「考えるよそりゃ…。きっと白石さんも勇気出して俺に伝えてくれたんだろうし」
「でも山宮くん、告白なんて日常茶飯事なんじゃないの?」
少し意地悪な質問をしてしまった。
そして山宮くんはあからさまに困った様子で言いづらそうに言う。
「まぁ…ないことはないけど、こんな近い関係の人に告白されるのとはまた違うからね」
遠回しに私のことを親しい関係だと言ってくれたようで自然と頬が緩む。
「へへ…そっか」
「うん」
私がまた口を開こうとした時、外からバルーンリリースのアナウンスが聞こえた。
「えっ…もうそんな時間?」
「やば。風船もらうの忘れたね」
この時間までに生徒たちはバルーンリリースに必要な風船を生徒会のタスキをつけている人からもらうのだが、バタバタして完全に忘れてしまった。
図書館の二階に上って、窓を開ける。
外は風船を持った生徒でいっぱいで、今から行ってももう間に合わないだろう。
「まぁいっそ眺めるだけでもいいか」
「そうだね。私風船膨らませられなくてやったことないし」
「えっ⁈」
なぜか山宮くんにかなり驚かれてしまったけれど、恐らくバルーンリリースの時間はもうすぐだ。
去年もその前もまともに参加していない私は、こうして山宮くんと一緒に見ることができるだけで幸せなのに。