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「ずっと誰にも言ってこなかった。家族にも、心配かけたくないし。友達にももちろん言わなかった。なのになぜか、白石さんには聞いてほしいって思った」

山宮くんの口から零れ落ちた言葉からは痛いほど苦しみが伝わってきた。
もちろん私なんかに山宮くんの気持ちが分かるはずもない。
けれど、知りたいと思った。
山宮くんが今までどんな思いで生きてきて、どんなことを経験したのか。その時、どう思っていたのか。
私が見ていた山宮くんは、彼が必死に取り繕っていた仮面だった。
誰にも知られたくなくて、分かられたくもなかったのだろう。
親に、友達に、先生に、心配をかけまいと必死に理想の自分を装い続ける山宮くんは、私と同じに見えた。
私も親に見捨てられるのが怖くて、人に失望されるのが怖くて、優等生で居続けた。
そんな時に、眩しい太陽のような山宮くんと出会った。
自分とはかけ離れた存在だと勝手に思っていた。
けれど山宮くんも、一人の優等生だったのだ。

「白石さんのことは初めて見た時からずっと憧れてた。一人でも怖じ気づかずに凛としている姿がかっこよかった。仲良くなってからは少し違う一面も見たけど、その印象は今でも変わらない。強い白石さんが眩しかった」

続けて零れた彼の口から出たのは、予想もしていなかった言葉だった。
取り繕ろうのを辞めた山宮くんの姿は脆く、今すぐにでも壊れてしまいそうなおもちゃのようだ。
そんな状態の山宮くんを見ていられず、私は思わず山宮くんに手を伸ばして手のひらを握った。
山宮くんは一瞬驚いたような表情を見せたけれど、そっと私の手を握り返してくれた。
今にも溢れそうな涙がずっと山宮くんの瞳の上で揺れていて、私まで目の奥が熱くなる。

「大丈夫。私だって山宮くんが思っているような人間じゃないよ、きっと」

「…え?」

「一人は怖いし、凛として見せているだけ。けどたまに我慢できなくなって溢れちゃうし、全然駄目だよ」

山宮くんは首を横に振ってくれていたけど、本当のことだ。
私が山宮くんのことがそう見えるのと同じように、山宮くんもきっと私の仮面だけが見えていたのだろう。
けれど話さなければ人のことなんて一部分しか知ることができないし、眩しくてキラキラしているのなんかほんの少しかもしれない。
そんな単純なことを考えられなくなってしまうくらい、追い詰められてしまうことがある。