そうすれば誰も悲しまないと本気で思っていた。
それなのに俺は、上手くやれなかった。
県大会出場まであと一歩という大事な試合が始まる直前に、チームメイト達から言われた。
「お前がいれば勝てるから安心だわ!頑張ろうな!」
冷静になってから考えると、ただの褒め言葉だ。
けれどその時の俺には更に背負うものが増えたようで、一瞬で吐き気がした。
ここで俺がもし失敗して勝てなかったら、どうなる?
みんな俺に失望して、呆れるかもしれない。
そんな考えが頭の中に充満して、今まで蓋をしていた感情が溢れ出してしまった。
その言葉を受けてすぐに周りのチームメイト達はコートに走り出した。
俺も行かなくちゃいけない。
頭ではそう分かっていたのに、足が動かなかった。
みんなが俺の名前を呼ぶ声が聞こえて、思わず耳を塞いで座り込んだ。
座り込んだと同時に、呼吸が上手くできなくなった。
苦しい、苦しい、苦しい。
頭の中はそれだけでいっぱいになり、パニックに陥った。
いつもは何の違和感もなくしている呼吸という動作が突然できなくなった。
周りでみんなが焦っているのが分かる。
けれどもう誰も自分の名前を呼んでほしくなくて、また強く耳を塞いだ。
何が起きているのか分からなくて、ただただ苦しくて、初めて死ぬかもしれないとも思った。
けれど人間そんなことでは死ななくて、次に目覚めると俺は病院にいた。
腕には点滴が刺さっていて、母さんと父さんが心配そうな顔で俺を見つめている。
少し落ち着いてから、何だか色々な検査をさせられ、医者からの説明を受けることになった。
両親も同席するように言われ自分は何か大きな病気なのかと怖くなった。
しかし実際医者から告げられたのは、パニック障害という病名。
当時その病名すら知らなかった俺は医者から丁寧に説明を受けた。
パニック障害は激しい不安や恐怖を感じた時にパニック発作を起こす病気だ。
医者の説明を受ける前に想像していた身体の方の病気ではなく精神疾患だったことに驚きとショックが隠せなかったのを覚えている。
その頃精神疾患への知識も薄かった俺は、精神の病気になる人はメンタルの弱い人だという考えだったため、自分のプライドが相当傷ついた。
けれどその後パニック障害は誰にでもなりうる病気で、そもそも精神疾患は脳の病気。メンタルの強弱は関係ないことを知った。