「はぁ…」
塾の自習室に籠っていると気がついたときには外はもう暗くて、時計は二十二時を指していた。
もう帰らないとと荷物をまとめ始めると、まだ数人同じ自習室にいたことに気がつく。
その中の一人は塾の中でも頭がいいと有名な女の子だった。
その子とは話したこともないし、あの子は私なんかの存在すら知らないだろう。
そんな彼女を見て、どう頑張ったって勝てないじゃないかと敗北感に襲われる。
私よりも断然成績がいいあの子でさえ、この時間まで塾で勉強しているんだ。
それを可視化できてしまうと更に苦しくなった。
塾にいる時間はずっと息が詰まるような気持ちで、好きじゃない。
本当はこんなところもう行きたくないし、勉強だってしたくない。
毎日毎日勉強だけして、こんなに頑張っているけれど、もし合格できなかったら。
その恐怖で体を動かすだけの日々がこんなに辛いとは思わなかった。
高校受験の時よりも人生が左右される気がして、常に力が入っていることに疲れてしまった。
誰かと話したい。けれど今ここにみんなはいないし、会えない。
こんな状態で会ったら、泣いてしまいそうだ。
そんなことを考えながら家までの道を歩く。
誰もいない道を歩いていると、自分一人だけ取り残されたみたいで何だか怖い。
今この世界には自分一人で、愛梨ちゃん達と仲良くなったのは全部夢で、私の妄想なんじゃないかと思う時がある。
前よりはそう考えることも減ったけど、疲れていたり気持ちが落ち込んでいたりするとそういうことを考える。
すると突然スマホが震えて、誰かからメッセージが送られてきたのが分かった。
暗い夜道でスマホの画面が光って眩しいけれど、細めた目でもはっきりと見える。
ロック画面に表示されていたメッセージの差出人は山宮くんだった。
すぐにスマホを起動して、アプリを開く。
山宮くんとこうして個人的に連絡を取るのは久しぶりだった。
『いきなり連絡してごめん。いつか図書館来れる日ある?』
ここ最近は私の塾が放課後に立て込んでいたので、中々山宮くんと図書館で会うことができていなかった。
二人きりで話す機会がなくて寂しいと思っていたこのタイミングでのこの連絡はすごく嬉しかった。
私は嬉しい気持ちをメッセージにそのまま乗せて返信する。
『こちらこそ連絡ありがとう。最近図書館行けてなかったよね。来週の月曜日だったら塾がないんんだけど、どうかな?』
送ってすぐに、既読がついた。
既読がついて返信がくるまでのこのドキドキにはまだ慣れない。
どうにか気を逸らしながら歩いていると、またスマホが震えた。
『じゃあ月曜、図書館集合で!』
その返信がきてすぐに、クマがグッドマークを作っている可愛いスタンプも送られてきた。
このスタンプを持っている山宮くんが意外で、可愛くて、夜道で一人笑う。
さっきまでの憂鬱な気分が嘘みたい。
山宮くんのメッセージで、目の奥の涙もどこかへ飛んで行った。
好きな人のおかげで私は息苦しいこの期間もどうにか生きることができる。