「そういや、白石ちゃんには言ってなかったっけ」
「ん?」
「俺と神谷、付き合うことになったんだ!」
柏木くんはクラス中に響き渡るような大声でそう言った。
その瞬間愛梨ちゃんはとんでもない速度で柏木くんの方を振り向き、クラス中の女の子達は悲鳴なのか歓声なのか分からない声をあげている。
柏木くんただ一人が、なぜこんな騒ぎになっているのか分かっていない様子だった。
「ほんとに馬鹿!なんでそんな大声で言うわけ⁈意味わかんない…」
「えっ、?言っちゃだめだったの?」
「言っちゃだめも何もないわ!あんたほんとに自分のこと客観視できないんだね。ほんと呆れる」
「ちょ、神谷!」
愛梨ちゃんは生徒からの視線に耐えられなかったのか、一人で教室を出て行ってしまった。
そして今登校してきた山宮くんは教室を出て行く愛梨ちゃんの表情を見て、何が起こっているのか分からない様子でこちらに近づいてきた。
「おい、お前何したんだよ」
「いや別に何も…」
「愛梨ちゃんは柏木くんの彼女になったことで女の子達から責められることを恐れてたんだよ」
「はぁ?なんだそれ」
「柏木くん女の子に人気だから柏木くんのことを好きな女の子がたくさんいるの。その女の子達がに柏木くんに彼女ができたことが広まり始めてて、愛梨ちゃんバレたらなんて言われるんだろうって怖がってた」
全く理解ができていない柏木くんに説明すると、やっと納得したようで机の上で頭を抱えてしまった。
「そういうこと…?じゃあ俺、あんなこと言っちゃったらだめだったんじゃん」
「裕也は何も考えずにでかい声で言っちゃうからな。今すぐ神谷のとこ行って謝ってきな」
「そうするわ。あ…英語の課題、先生に上手く言っておいてくれない?」
「うん。もちろん」
柏木くんは急いで椅子から立ち上がり、愛梨ちゃんの向かった方へ走っていった。
それからすぐに予鈴のチャイムがなって、一旦生徒のざわつきは落ち着いたようだ。
「大丈夫かな。愛梨ちゃん」
「裕也がいれば大丈夫だよ、多分」
残された私達は待つことしかできず、ずっと落ち着かないまま一限の授業を受けた。
チャイムがなって一限の授業が終わり、しばらくすると二人が戻ってきた。
「仲直り、しました!」
「仲直りっていうか私悪くないし」
「うん。ほんとにごめん」
二人は無事和解したようで、笑顔で教室に帰ってきた。
何を話したのか少し聞いてみると、愛梨ちゃんが嫌な思いをしないように柏木くんがいくつかの約束を作ったそう。
「まず、女子に触らせない!確かに逆だったら嫌だし、俺も気を付けることにした」
「それでも触られてたら今度こそ別れるからね」
「神谷意外と嫉妬とかするんだな、可愛いじゃん~」
「…別れるよ」
「ごめん」
他にも人前で手は繋がない、女の子と二人きりで話さない、など。
愛梨ちゃんをもう傷つけないようにと律儀に約束を決めた柏木くんが何だか可愛かったし、素敵だとも思う。
愛梨ちゃんの大切な気持ちがなくなっていしまわないで、本当に良かった。
同じく安心した様子の山宮くんと目が合って、二人で笑った。