「ただいま」
「おかえり。ご飯できてるよ」
「うん」
図書館で三時間ほど時間を潰してから家に帰る。いつの間にかそれが習慣になっていた。
早く家に帰ってもお母さんとの時間が増えてストレスになるだけだし、なるべく家にはいたくない。
だから毎日塾だの友達との約束だの理由を付けてわざと帰る時間を遅くしていた。
けれど今年から受験生ということもあり、少しお母さんの雰囲気がピリピリし始めたのを感じるので、そろそろ図書館通いも難しいかなと考えている。
「そういえばそろそろ試験の結果出たんじゃない?」
その言葉に毎回心臓が嫌な音を立てる。
いい成績が取れていれば両親から突き放されることなどないはずなのに、毎回この瞬間は息が詰まってしまう。
「…うん。これ、結果。今回も大丈夫だったよ」
そう言って通知表を渡すとお母さんの顔がほっと緩み、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。
あぁ、良かった。今回も私はこれを失わずに済んだんだ。
「流石奏葉だねぇ。ほんと、奏葉はお母さんの自慢の娘だよ」
やっぱり私は間違ってない。世間の誰がそれを間違えていると言ったって、今の私はこれを失いたくない。
お母さんの腕の温かみと共に私は心からそう思った。