「じゃあ行こうか」

「うん。…あっ」

愛梨ちゃん達のいる場所に向かおうとすると、右の足首が痛んだ。
急いで確認すると、やはり靴擦れが起きていて血が出ている。
慣れない下駄でかなり歩いてしまったからだろう。けれど絆創膏など持っていなかったので、そのまま歩くしかない。
山宮くんに気づかれないように、咄嗟に誤魔化した。

「白石さん、それ足痛い?」

それなのに少し歩いたところでやはり山宮くんに気がつかれてしまった。
なるべく靴擦れの起きている部分が擦れないように足をかばっていたので、もう言い訳のしようがない。

「ごめん、でも大丈夫。右足だけだし」

「見せて」

「えっ?」

「足」

「いや、山宮くん!」

山宮くんは歩いていた足を止めて通路の端のベンチに私を座らせる。
男の人に間近で足を見られることに抵抗があったが、有無を言わせない速度で山宮くんはポケットから絆創膏を取り出した。

「じゃーん」

「えっ、なんで⁈」

「妹がよく転ぶから。いつの間にか妹と出かける時以外も常備するようになっちゃったんだよね」

山宮くんのいいお兄ちゃん感が否めなくて、勝手にドキドキしてしまう。
愛梨ちゃんの言っていた、手を焼いてしまうお兄ちゃん感はやはり合っているのかもしれない。
おこがましいけれど私は、第二の妹のような存在なのだろうか。
妹という言葉になぜか胸の奥がツンとした。

「はい。これでだいぶ痛くないと思うよ」

「山宮くんほんとにありがとう…」

足に絆創膏を貼って、山宮くんはまた私の前を歩きだす。
けれど人が多くて気を張らないとはぐれてしまいそうだ。
人混みに紛れて山宮くんとはぐれそうになってしまった時、山宮くんは私の手を引いてくれた。

「危ないから俺の服掴んでて」

手と手が触れたのは一瞬だったけれど、その一瞬のぬくもりが服を掴んだ後も残っていた。
心臓がうるさい。山宮くんの服に触れているだけなのに、一番距離が近かった。
私より少し高い位置にある頭を見つめて、綺麗だなと思う。
夜に見る山宮くんはいつもよりも綺麗で、いつもとは違った。
その姿をずっと隣で見ていたくて、胸が締め付けられた。

「神谷達あれか?」

「多分そうじゃないかな」

やっとの思いで河原にたどり着いた時にはもう蘭ちゃん達も先に集まっていた。
花火はもう数分後に始まる。

「あー!良かった!奏葉きた!」

「もう始まるって!急げ馬鹿!」

「落ち着けよ裕也」

慌ただしい愛梨ちゃんと柏木くんに急かされ座った途端ドンッと大きな音がして、人々の歓声が聞こえた。
顔をあげると、目の前には明るすぎる程の花火が光を放っている。
初めて間近で見た花火は思い描いていたよりも大きくて、少し怖くて、物凄く綺麗だった。
周りの人が口々に綺麗、すごい、と叫んでいる。隣には、山宮くんがいる。

「綺麗だね」

そう言った山宮くんが綺麗で、私は彼の目に映る花火をしばらく見続けた。
彼の瞳の中で、花火が綺麗に散っている。
それを隣で見ていられることが夢のようで、この時間が終わってほしくないと強く思う。
花火なんて音しか聞いたことがなかった。
夏になると何度も花火大会が行われて、うるさい音だけを聞いて、一生見てやるもんかと思っていた。
けれど知らなかった。
山宮くんの横で見る花火はこんなにも綺麗だった。
彼の隣で見る景色はこんなに綺麗なものばかりなのだろうか。
私が知らない景色を彼となら一緒に見たいと思う。
それに、山宮くんへのこの特別な気持ちは何なんだろうってずっと考えていた。
今でもみんなの言う恋は分からない。
けれど私は山宮くんの隣でたくさんの景色をみたい。
山宮くんと出会ったことで、また新しい感情を知った。