「…ごめんね、私のせいで」

「白石さんのせいじゃないでしょ。俺と回るの、嫌?」

「そんなことないよ!」

否定の勢いで思い切り頭をあげると、また山宮くんと目が合った。
驚いたのか目を丸くしている山宮くんの顔を見て、思わず笑う。

「え?何…」

「ご、ごめん。目、まん丸で、可愛くて」

「…やめてよ」

山宮くんは照れたように手を首にあて、少し笑った。
初めて見た山宮くんの私服は、想像していたよりもシンプルだった。
白のシャツに黒のジーンズ。足元はおしゃれなスニーカーで締めている。
そんなシンプルな服が更に顔の綺麗さを際立たせていて、かっこいい。
いつも以上に輝いている山宮くんの隣にいるのが私なんだという事実が信じられなかった。
さっきから通りすがる人も、山宮くんの方を見ている。

「可愛いのは、そっちでしょ」

「…え」

「浴衣、可愛くてびっくりした。それでさっき目、逸らしちゃった」

その言葉を聞いて、また顔が熱くなった。
また私だけドキドキしてる。そう思ったけれど何となく山宮くんの顔も赤い気がして、彼の頬に手を当てた。

「え?」

「…あったかいなって、思って」

こんな真夏に、苦しい言い訳だなと自ら思う。
思わず触れてしまった山宮くんの頬は暖かくて、少し骨ばっていて、私のものとは全く違っていた。
どんどん熱くなっていくのは、私の手なのか彼の頬の方なのか、もう分からない。

「…今日どうしたの」

「ん、?」

「いつもの白石さんじゃない」

そう言われた途端、すっと体温が下がった。私は慌てて彼の頬から手を離し、ごめんと謝る。
急にらしくないスキンシップなんかして引かれたかもしれない。
久しぶりに山宮くんに会えたからか、今日は何だかずっと空回りしてしまっている気がする。
自分が自分じゃなくなる感じがして変だ。

「…なんか、食べる?」

「あ、う、うん」

せっかく花火大会にきたのにこのまま二人して立ち尽くすわけにもいかないので、適当に屋台を回ることにした。
でも私、山宮くんの好きなものとか何も知らない。
今の私と山宮くんの関係は、友達でも恋人でもない。
私がただ一方的に山宮くんに憧れを抱いているだけで、山宮くんからしたらただたまに図書館で会うクラスメイトだ。
山宮くんとの関係を進展させるなんてそんなことを言っている場合ではない。
まず、山宮くんのことを知らないと。