確かに愛梨ちゃんの言っていることは真っ当だと思う。
今まで山宮くんのような存在には出会ったことがなかったし、その意味でも特別だ。それは自覚している。
けれどこの気持ちが恋というのか、いってもいいのか、私にはまだ分からない。
いつか分かる日が来るのかも分からないし、それが山宮くんなのかも。

「もしかして奏葉、初恋まだ?」

「う、ん…」

そう言われてみると、今まで誰かに恋愛感情を抱いたことがないことに気が付いた。
かと言って恋愛に興味がないというわけではない。
だからきっとまだその相手に出会ったことがないだけだと思っていた。
けどそれが、山宮くんかもしれないってこと?
そう考えた途端、また顔が燃えるように熱くなった。
すぐに手で頬を抑えたけれど、尋常じゃない熱さだ。

「奏葉ほんとに可愛い!奏葉の場合、好きが何かよく分からないんだよね」

「そうなんだけど、山宮くんのことがそうなのかな…?」

「それは山宮と一緒にいる時にしか分かんないでしょ!一緒にいる時にずっと一緒にいたいなとか、他の人に取られたくない!とか独占欲が出てきたりしたら恋だったりするかもだし。この場では分かんないな」

「そうなんだ…」

恋って難しい。
こんなことをみんなはやっていたのか。
今まで自分が経験したことがなかったから、恋愛で悩んでいるクラスメイトを少し軽く見ていたけれど、まさかこんなに難しい事だったとは。過去のクラスメイトに申し訳なくなった。
だって。恋愛には正解がないらしい。
比べるのは良くないけれど、例えば勉強だったら全てに答えがある。
しっかりとした答えのない現代文の問題でも、ヒントはある。
けれど恋愛にはそれもない。
当たり前に正解がある勉強だけしてきた私は、大きな壁にぶち当たった。

「でも、山宮も奏葉のことは他の子とちょっと違う気はするんだよね」

「えっ、違うって…どんな風に?」

「山宮ってみんなに対して平等に優しいけど、なんか奏葉のことになるとそれの度合いが増すというか。手焼きたくなっちゃうお兄ちゃんみたいな?」

自分では全くそんな気はしなくて、中々実感が持てない。
言う通り山宮くんは基本的にみんなに対して優しいので、そこに特別な感情などきっとないのだ。

「まあまあ。とにかく二人とも頑張ろー!恋も勉強も遊びも両立してやろうよ、ね?」

今まで勉強してこなかった私に、両立などできるのだろうか。
まだ心の内側に不安はあるけれど、今の自分は仲間がいるという自信がある。
いつもより少し違う、夏の予感がした。