「え、じゃあ私のお姉ちゃんの浴衣貸してあげるよ!今年はお姉ちゃん仕事忙しくて浴衣なんて着ないだろうし」
「そんな、申し訳ないよ…」
「でも一人だけ私服なのも嫌じゃない?私はどっちでもいいよ!」
愛梨ちゃんの提案はとてもありがたいのだけれど、そんなに甘えてしまってもいいのだろうか…。
少し迷った挙句、自分で選ぶこともできない気がした私は愛梨ちゃんのお姉さんの浴衣を借りることになった。
「明日から夏休みか~」
「だね」
「なんか今年は受験もあるし夏楽しみきれなくて嫌だなぁ。夏、好きなのに」
今日は夏休み前最後の登校で、明日からしばらく学校は休みになる。
学校がないということは必然的に愛梨ちゃん達とも毎日は会えなくなるわけで。
自分から会おうということもできず、次にみんなと会えるのは二週間後の花火大会だけ。
山宮くんとは何の約束もできなかった。
夏休みも図書館は開いているけど、学校がないのにわざわざ山宮くんの一日を奪ってしまうのも申し訳なくて、何も言えないまま。
帰りの電車が途中まで同じでよく一緒に帰る愛梨ちゃんとのこの時間も一ヶ月ほどなくなってしまうのが、今はどうしようもなく寂しい。
「奏葉はさ、やっぱり夏休み忙しい?」
少し探るような愛梨ちゃんの声に反応する。
「やっぱり勉強はしないといけないけど、でもみんなとも会いたい、し…」
「…ほんとに?」
「…うん。できるだけ、会いたい」
私のその言葉を聞いた途端、愛梨ちゃんの顔がパッと明るくなった。
「会おう!私も会いたい!良かった、奏葉も同じこと思っててくれて」
愛梨ちゃんは友達としても、一人の女の子としても本当に可愛いなと思うことが多い。
喜怒哀楽がはっきりしていて、素直で、言いたいことをはっきりと言える。
彼女のそんなところが羨ましいし、同時に愛おしく思う。
いつしか愛梨ちゃんの笑顔を見ることが自分の癒しになっている気がした。