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夏休みはあまり好きではない。
そもそも暑いのが苦手だというのもあるけど、昔から夏休みにいい思い出がないのだ。
夏休みといったら夏期講習やら特別模試やら思い出は勉強関係のものだらけ。
小学生六年生の夏休み、クラスメイトがみんな友達や家族と遊びに出かけているのを横目に塾に通う日々が続いたことを思い出した。
今年は受験生なので当たり前に塾にも通わなければいけないので、憂鬱な夏になりそうだが、それでも一つ楽しみなことがある。
今月末に愛梨ちゃん達と花火大会に行く約束をしているのだ。
最初その話をみんなから聞いた時はお母さんから許可が出るか怪しかったので一旦保留にしてもらって、その日の夜お母さんをどうにか説得した。
最終的には休み明けの模試で絶対に偏差値を落とさないという約束で海に行くことを許可してもらった。
かなり重い約束だが、遊びに行くのは一日だけだ。その日までに固めておけば問題ない。
この間の期末試験もかなり良い成績が取れたので、お母さんの機嫌がよかったのもあるだろう。
今回はいいパターンだが自分の成績がお母さんの機嫌に直結するのだと久しぶりに実感して、複雑な気持ちになった。
しかしその花火大会に行くにあたり、一つ問題があった。
「ねぇ、みんな浴衣何色~?」
「私紺に菊みたいな柄のやつ」
「わーぽいわ」
「確か白の布にオレンジっぽいお花があったかなぁ」
「絶対似合う。私白だからみんな色被んないね。あ、奏葉は?」
「浴衣、持ってなくて…」
「えっ⁈浴衣持ってなかったの⁈」
申し訳なくて物凄く小さな声で言ったはずが、すぐに愛梨ちゃんに大きな声で復唱されてしまった。
この話が決まってからずっと気になっていた浴衣問題。
きっとみんな着てくるだろうなとは思っていたけれど、最近自分の浴衣が幼稚園の時のものしかないことに気が付いたのだ。
当たり前にそれは着られないので、買おうとするもどの浴衣を選んでいいのか分からず、ずるずると引き延ばしてしまった。