「白石さんは、その親御さんのことどう思ってる?」
「え?」
「親御さんのその考え方、納得してる?」
「…少しおかしいって、分かってるの。けど今の状態を保てなくなったら本当に見捨てられちゃうから。それは一番嫌だから」
自分で言っていて悲しくなってしまって、少し声が震える。
もしもお母さんに見捨てられたら。恐ろしくて考えたくもない。
そんなことになるくらいなら、私は親の考え方に従う。そうすることでしか自分のことは守れない。
「そっか。じゃあ今まで通りやっぱり勉強は続けるんだね。…でももし勉強ができなくなっても、いい子じゃなくなっても、白石さんは白石さんだよ」
そんな親なんかおかしい。今すぐその親のことなんかこっちから見捨ててやれ、くらいの勢いで止められるかと思いきや真逆の言葉をかけられて拍子抜けしてしまった。
そんな私に気が付いたのか、山宮くんは不思議そうな顔をしている。
「…馬鹿だって、言わないの?」
「なんでそんなこと言うと思うの。言うわけないよ」
「だって私、馬鹿なことしてるって自覚あるの。高校生にもなって親の敷いたレールしか歩けなくて、自分の意思なんか更々なくて。親がおかしいっていうのを言い訳にして自分が何もないことを誤魔化してる最低な人間なの」
「白石さんそれは違う。誰かに言われたことをやり続けることができるのはすごいことだし、それ自体難しいことなんだよ。それに、白石さんの親御さんの考え方も間違ってない。だからそれをどんな理由であろうと親御さんの理想の自分で居続けようとする白石さんは、立派だよ」
頬が冷たい。気が付いたら泣いていた。
山宮くんの手で頬を拭われて、暖かい手により涙が溢れる。
「だからきっと大変なんだよね。しんどいこともあるんだよね」
「なんで、分かるの、?」
「…俺もそうだったから」
山宮くんはそう言って寂しそうに笑った。
そんな顔ですら綺麗で、目が離せない。
さっき私にくれた言葉を全て山宮くんにもかけてあげたい。
私のことなんかどうだっていいから、山宮くんには楽しそうに笑っていてほしかった。
「しんどくなったら思い出して。本当は優等生じゃなくたっていい。そんなことで白石さんの価値は決まらない」
言葉を返すことはできず、ただ頷くことしかできなかった。
私の人生に、私の本当の生き方を肯定してくれる人はいなかった。
けれど山宮くんは、私の心の中の醜い感情も全部聞いたうえで、間違っていないと言ってくれた。
その言葉がどれだけ私を救ったか、彼に伝わってはいないだろう。
そんな言葉を初めてかけてくれたのが山宮くんだったことが何より嬉しくて、どうしてか涙が出た。
これがうれし泣きというものなのだろうか。それにしては少し辛すぎるような気もする。
私の涙が止まるまでずっと山宮くんが頭を撫で続けてくれていて、気が付くころには日が沈んでいた。