「勉強、しなくていいの?」
「す、するけど…じゃあ山宮くんも本読んでおいてよ」
「ふふ、はーい」
いたずらっ子のように笑って鞄の中から本を取り出す動作が可愛くて、正直勉強どころじゃない。
前までは緊張で山宮くんと一緒にいる時に落ち着けなかったのだが、今は違う意味で落ち着けない。
少し前までの緊張とはまた違う感情だけど、一緒にいると心臓が爆発しそうなほどうるさくなる。
「世界史じゃん」
「…うん」
「白石さんはさ、なんでそんなに勉強頑張ってるの?やっぱり行きたい大学があるとか?」
「うーん。行きたい大学というか、行かなきゃいけない大学があるからかな」
これ以上深堀りされてしまうと怖いので、この手の質問には曖昧な言葉しか話せない。
「そっか。目標があるんだね。すごいや」
「そんな大げさなものじゃないよ。親に言われて決めただけだし」
「…親に?」
しまった。これ以上話を広げないようにしようとしたはずなのに、自分から深堀りしてしまった。
愛梨ちゃん達に聞かれた時は上手くかわすことができたのに。
思いとは裏腹にするすると言葉が零れ落ちる。
「私の親教育熱心すぎて、昔から勉強しかやってきてないの。親のせいにしてずっと勉強しかやってこなかったのは私なんだけどね」
「そうだったんだ」
「勉強ができたら、お母さんから見捨てられることもない。自分のことを無価値なんて思わなくていい。親は勉強のできる優等生な私が好きなんだと思う。私にとって優等生って言葉は呪いなの」
今まで溜め込んでいた家族への愚痴や、酷い自己嫌悪から言葉が止まらなくなってしまった。
しかもそれも山宮くんの前で。言った傍から言わなければよかったと後悔した。
引かれたに違いない。無理矢理優等生を取り繕っていたなんて。
「ごめん。いきなりこんな話…逆に私が邪魔しちゃったね」
とりあえず謝ってこの話を終わらせようとしたけど、山宮くんは無言のまま俯いて顔が見えない。
突然こんな話をされて、怒っていたらどうしようと不安な気持ちが私を襲う。
しばらくしてから山宮くんは言葉を紡ぎ始めた。
私が相当不安げな顔をしていたのか、少し笑っていつもよりも優しい声で。