「私は大丈夫だよ。そこでいつも通り本読んでてくれても」

「いや…その、今日は白石さんに会いに来たから」

「私に?」

「うん。約束してなかったけど、いたら嬉しいなーって」

これは昼間柏木くんに言われたことと同じだ、と瞬時に理解した。。
きっと山宮くんも柏木くんと同じで無意識に女の子が勘違いしてしまうような言葉をかけてしまうのだと思う。
昼間の蘭ちゃんの言葉がなかったらもっと動揺していたかもしれないけど、柏木くんで少し勉強したので少しの動揺で済んだ。

「…山宮くんあんまりそういうこと言わない方がいい」

「えっ…ごめん」

「あ、いやそういうことじゃなくて。さっきの言い方だと、私に会いに来たって言ってるようなものだよ」

「…ん?俺、そう言ったけど」

「え?」

「うん。俺白石さんに会いに来たんだよ」

その言葉を聞いた途端、脳がシャットアウトしたように何も考えられなくなってしまった。
頭の中がはてなで埋め尽くされて、もう完全にギブアップ。

「え?だってさっきのは昼間の柏木くんのと同じなんじゃ」

「なんで今裕也が出てくるのか分かんないけど、とにかく俺は白石さんに会いたくて来たの。けど試験期間なの忘れてた。また出直す」

「ま、待って!…ここ、いてほしい」

どうにか絞り出したその声は自分でも驚くほど小さく、山宮くんに聞こえたかも怪しかった。
けれど、山宮くんはそんな私の声まで拾ってくれたようだ。

「ほんとに?俺、勉強の邪魔しちゃうよ?」

「そんなことない。邪魔されたとしても、それはそれで…あっ」

また昼間のように言わなくていい事まで口走ってしまった。
私は何度口を滑らせれば気が済むのだろう。
また慌て始めた私を見て、耐えられないと言わんばかりに吹き出した山宮くん。
山宮くんが笑ってくれた。それだけで笑ってくれるならいくらでも口を滑らせるのになんて、馬鹿なことばかり考える。

「ほんと…白石さんって素直だよね」

「それ、褒めてる?」

「褒めてる褒めてる。あー面白い。白石さん見てると飽きないわ」

それはこちらのセリフでは?と言いかけてしまった。
山宮くんがどんな意味合いで言っていようとそんな存在であれることが幸せだしありがたいのだけど、私に会いに来たかった理由って何だったんだろう。
私が何か山宮くんにしてしまったのだろうか。
いや、そんなことはしていないはずだしそんなことで山宮くんは私に会いに来たりしない。
じゃあ、なんで。